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一日目
十月。男女ともに半袖シャツからカーディガンやブレザーに衣替えを完了させる時期。
これから体育祭や文化祭などのビッグイベントが控えているという事もあり、どことなくクラスにも浮足立っている人が多い気がする。
窓際の席でポツンと昼食のパンをかじっている僕もそうで、二つの赤丸がなされたカレンダーを見ると、自然と口元がほころんでくる。
ではなぜ教室の端で寂しくボッチ飯をしている僕が、リア充ご用達のイベントに胸を躍らさているのか。
それはつい最近できた彼女『鴻上麗華』という少女がいるからだ。
コウガミ・レイカは長く美しい黒髪を持ち、顔は表情が乏しいながら端麗、成績も学年トップと優秀、さらに運動もできるという高嶺の花にも程がある存在である。
その素性は誰も知らないが、ダメで元々だと告白をしてみたら意外や意外、オッケーを頂いたのだ。
「こ、鴻上麗華さん。ずっと前から好きでした。僕と付き合って下さい!」
「ええと、あなたは確か……」
「カオル……佐藤薫です」
「そう。いいわよ。佐藤君。私たち付き合いましょう」
なんてオッケーはされたものの、本当に付き合っているのか不安になる感じだ。
しかし告白をして返事が付き合いましょうは、それはここに彼氏と彼女という恋人関係が出来上がった事に他ならないだろう。
無理くりな方程式を完成させてしまい、苦笑しながらふと教室のドアを見る。
いつもは麗華と並んで昼食を食べるのだが今日は、
「ごめんなさい、佐藤君。少し用事があるので、先に食べていてくれるかしら」
だそうなので、こうして寂しくボッチ飯をしているのだ。
「遅いな……麗華さん」
教卓の上にかけられている時計に目をやると、もう少しで昼休みが終わる時間だ。
そんなにも時間のかかる用事とは何なのか。
僕は退屈さを紛らわすため、ふと外を眺めた。
雲一つない秋晴れの青空がどこまでも広がっている。
ボーっと無思考状態を暫く続けていたその瞬間、一瞬黒い影が目の前を通り過ぎていった。
重力に従った高所から低所への移動、つまり落下運動である。
「まさか……いやそんな事は」
焦点も定まっていないくらい遠くを眺めていたので確証はないが、さっきの物体は人型だったような気がした。
そんな事はあり得ない。
僕はその希望のこもった最悪な想像を否定するために、勢いよく窓を開け放つ。
「なっ! 何で……!?」
他のクラスメイトも僕と同じ物を見たのだろう。
一瞬にして教室内が悲鳴で満たされる。
「そんな……麗華さん!」
校庭には黒い華奢な体を包み込むようにできた真っ赤な花びら。
衝撃で散らばった、麗華さんの中身。
精巧な人形かと思ったが、リアルすぎる飛び散り方にその希望はすぐに否定される。
容姿端麗、成績優秀、そんな完璧な存在の彼女『鴻上麗華』の自殺。
その事実を認めた瞬間、僕の意識は途絶えた。
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