<1・王女、異世界転移する。>

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 父と母が、アリアが過去に見合いの席で尋ねられ、答えた言葉を再現してみせる。アリアは首を傾げた。一体、これらの何が問題だというのだろう。  アウストローラ至上最高の美姫である自分の忠実な下僕であること。男に求めるのはそれ以上でもそれ以下でもなく、それこそが彼らにとっても幸せなことであるはずである。だから、正直にその役目を担えと伝えただけだというのに――何でそんな、ドン引いた顔をされないといけないのか。 「お前、男を何だと思ってるんだ。そりゃ、並大抵の男はお前に頭でも武術でも勝てんだろうが。……自分のことを奴隷としか思ってない女に婿入りしたい男が、一体この世界のどこにいるというのだ」 「いるでしょ?わたくしよ?このわたくしの婿ですのよ?そりゃ」 「いるならそろそろ現れてもいいだろうが。もう何年婚約者探してると思ってるんだ。十歳から始めてもう五年も過ぎてるのに逃げられ続けてるんだぞ、いい加減自覚しろ。いや自覚してください頼むから」 「えええ……?」  お父様酷い。アリアはしくしくと泣き真似をしてみせる。残念ながらまったく効果はないらしく、父は完全にスルーして“それでだな”と話を続けた。 「実はとんでもない問題がある。お前が夫を作らないと……というか、誰かにちゃんと愛される人間にならないとな。呪いが発動するのだ、十六歳の誕生日と同時に」  はい?呪い?  いきなり出てきた物騒なキーワードに、固まるアリア。 「なんだその反応。言ってなかったか?我が一族には、メストローネの神の呪いがかかっとるんだ。メストローネの最大の権力者たるアウストローラの人間は、“その者が誰かを愛する以上に、下々の民に愛される人間”でなければいけないとされている。そのタイムリミットは十六歳。それができなければアウストローラの跡継ぎたるに相応しくないとみなされ……最大の名誉を剥奪されてしまうということになる。まあ早い話、醜い怪物にされてしまうということだな!」  ちょっと。  ねえちょっと待ってください、ねえ。 「そんな、話……いっぺんも聞いたことないんですけど!?」  確かに自分は遅生まれで、次の春が来るまで誕生日は来ないが。それでも、もうタイムリミットまで一年を切っている今になって何故そんな超絶大事な話をするのだろうか?それがわかっていたら、自分だってもうちょっと真面目に――いや、今までだって真面目に婚約者探しをしていなかったわけではないけれど――とにかく結婚に対して真剣に向き合っていたはずだというのに!
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