<1・王女、異世界転移する。>

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<1・王女、異世界転移する。>

――何よ、この窮屈な空間はぁぁぁ!  わなわな、と膝の上で手を震わせる女が一人。ずらりと規則正しく並んだ机。教師のやけに眠たくなるような声、チョークが黒板をかりかりと引っ掻く音、その様子を黙って見つめてノートにメモを取る制服姿の高校生達――。  ここはそう、とある高校の教室。現在は、授業中。苛立ちを募らせる自分もまた、その高校に通う生徒の一人である。一応、そういうことにはなっている。  だが、その実態は。 ――一時間以上、こうやって密な空間で、眠くなるような退屈な教師の話を聴いて、これで何で勉強がはかどるってのよ!?あんたら、実は先生じゃなくて、催眠術師の間違いじゃないの!?  何故、自分はこんなところで、こんなつまらない授業を受けているのだろう。  アウストローラ王国の跡継ぎたる、王女の自分が。  頭脳明晰、運動神経抜群、魔法と武術の天才にして、類まれなる美貌を持つこの自分が。  どうしてこんな、異世界“地球”の人間のフリをして、高校なんぞに通わなくてはいけないのか。 ――眠い……超絶に眠いわ。この、アウストローラ王国の王女たる、このわたくしが……っ!  アリア・ル・アウストローラ。  とある異世界の大国、その跡継ぎである姫がこんなところにいる理由は――今から一週間ほど前に遡ることになる。
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