その1

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その1

“人生の交差点 はぐれても君を見つけ出すよ あいた助手席に座るのは君だからね” フロアに流れているのが、井口一彦の“14時05分”だと気づいて、気だるい気持ちは一瞬で吹き飛んだ。 ワタシは寄りかかっていた壁際を離れ、足早にDJブースの方へ向かう。 この曲がリリースされたのは、2年くらい前。だけど、井口の歌声は否応なしに、ワタシをあの時代に戻してくれる。 ずっとずっと、ライヴハウスにへばりつくようにして生きてきて、この場所で井口の歌を聴いたことなんて、今まで一度だってなかった。 今夜のDJなんて、気にしてなかったけど。 どんな人なんだろう。 人ごみをすり抜けるように、ライヴハウスの中を移動するワタシ。 こんな短い距離なのに、頭の中で、いろんなことが駆け巡っている。 それでも、たどり着く先は、たった一人のことだけ。
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