fastoso

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 キラキラしたイワシは、一匹一匹がラメの粒のように輝いている。その光の波が自由自在に一団として動き回る様は、まるで全体が一つの生き物という意識を持っているかのように見える。  いつしかその動きはピアノの音と美しく融合して、まるで曲に合わせて踊っているかのように見えてくる。  両手の指先が、そこにあるはずのない鍵盤を叩く。あの人がこう弾くなら、俺は隣でこう弾きたい。この煌めくトルネードと同じくらい、俺はあなたの音に輝きを加えるし、離れることなく寄り添える。  でも、耳に聴こえてくるのはあの人の音だけで。  俺の叩く鍵盤は、物音ひとつ立てやしない。  あなたは、俺の音が欲しくなかったんですか? 俺の音は、あなたと共に響いてはいけないものだったんですか?  磁石に引き寄せられる砂鉄のように集まったイワシが一度沈み、そしてダリアが開花するように鮮やかに、一面に開く。  ファストーソ。  曲の、一番華やかな表現をする部分。  俺は、あの人が演奏するここがとても好きだ。とても豪華で、煌めいていて。ロココ時代の宮殿で、無数のダイヤモンドが貴婦人たちを飾り立てて輝く光景が見える。
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