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「はようっ、朝練終わったか?」
俺はいきなり部室のドアを開けた。
2年生、キャプテンの島がキャッというようにシャツで胸元を隠す。
「島ぁ、パンツ一丁ならせめて下隠せよ」
俺は笑いながら部室に入った。
島と同じく2年の黒田しかいなかった。
「浜田先輩! 来てくれたんですか!」
黒田が嬉しそうに目を丸めてくれた。
なんだか俺もうれしい。
「鍵を返そうと思ってさ、ホイッ、受け取れ」
黒田はナイスキャッチした後、寂しそうな目で鍵を見た。
「浜田さん、もうすぐ卒業なんすね。
いつも一緒にサッカーしていたから、実感わかなかったっす」
「俺はみんなと一緒にサッカーできて楽しかった。ここで過ごした時間は、俺の一生の宝物ですっ」
俺は背筋を伸ばし自分の胸に手を当て、目を輝かせた。
俺なりのみんなへのお礼のつもりだ。
こういう時、俺は感傷に浸るのが苦手だ。
だから、手短に楽観して去りたいんだ。
「なんすか、その卒業式のお決まりの挨拶みたいなのはっ」
黒田は俺のことをわかってくれている。
だから噴き出して笑ってくれた。
島はシャツに首と手を通すと、ようやく口を開いた。
「浜田さん、本当にいままでありがとうございました」
「ん? 俺、感謝されるほどチームの役には立ってなかったぜ?」
「何いってるんですか、このチームがうまく回っていたのは、浜田さんがいたからじゃないですかっ」
島は自衛官ばりの刈り上げだ。
それが島のまじめさを表している。
このままだと身動きが取れなくなるような感動スピーチをされそうだ。
それを察したのか、黒田が口をはさんでくれた。
「浜田さん、たくさん伝説を残してくれましたからね!
ボールに触れてもないのに、膝から血を流してピッチから戻ってきた時、マジなんでって思いましたもんっ」
黒田は明るく笑ってくれた。
「だろ、島もそれくらい伝説残すキャプテンになれよっ。
じゃ、始業時間になるから行くなっ」
俺は2人の言葉を待たずに、手を上げ部室を出る。
島が何か言いたそうだったけど、丁寧に俺に頭を下げていた。
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