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作業場にて
「今日は雨すごいですねー」
エリックの作業場にいたチヨメがふと顔を上げた。
サイモンとの一件があって以来、チヨメはエリックに懐いたのか、度々こうしてエリックの作業場に遊びにくるようになっていた。
「えっ?あぁ、うん。そうだね」
チヨメの声にエリックが窓の外を見る。昼頃から降り出した雨は、止むどころか雨脚が強くなるばかり。まだ夕方だというのに、分厚い雨雲のせいで雨雲の外は真っ暗だ。
「今日は甲板に出ないようにしないとね」
エリックがそう言うと、チヨメがあっと声を上げた。
「待って、エリックくん。あたし甲板に剣置きっぱなしかも!」
慌てて自分の腰を確認するチヨメ。だがそこに愛用している剣はない。
「しまった!せっかくシュウちゃんに手入れしてもらったのに……エリックくん、ちょっとあたし取ってきますね!」
チヨメが立ち上がると、エリックも慌てたように立ち上がった。
「ダメだよ!なんかあったらどうするの?それなら俺が取ってくるから、チヨメちゃんはここにいて?」
エリックが作業場から出ようとすると、チヨメがそれを止める。
「エリックくんこそ、なんかあったらどうするんですか?船大工がいないと困りますし、あたし取ってきますよ」
ね?とわざとチヨメが上目遣いでエリックを見れば、エリックが小さくうめいて俯いた。
「や、でも……」
「じゃあ、エリックくんはここにいてくださいね!」
エリックが俯いた隙に、チヨメが作業場を飛び出した。
「え!ちょ、チヨメちゃん!」
颯爽と走り去る背中に、エリックはため息をついてその後を追いかけた。
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