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荒波の中
全身が海に叩きつけられる感覚で、エリックは何が起こったかを察した。
この嵐の中、海に振り落とされたのだ。
そうだ、チヨメは?
確かチヨメは泳げなかったはず……。
エリックが辺りを見渡すと、うっすら紫色の何かが見えた。
「チヨメちゃん!」
荒波をかき分けて近くに行くと、やはりそれはチヨメで、エリックはチヨメの小さな体を抱き寄せる。
「チヨメちゃん!」
声をかけてみるが反応はない。どうやら気を失ってしまったらしかった。まずい。このままだと二人とも力尽きてしまう。
その時丁度、大きな木片が流れてくるのが見えた。これだ!とエリックはチヨメを抱えたままその木片を掴んで手繰り寄せると、その上にチヨメを押し上げる。そして自分もそこに上半身を預けて、なんとかチヨメの意識を取り戻そうと軽く頬を叩いた。
「チヨメちゃん!チヨメちゃん!起きて!」
だがチヨメはぴくりとも動かない。どうする。どうすれば……。そう考えている間も、海は二人に容赦なく襲いかかってきた。目を凝らさなくても見えるほど大きな波が、目前まで迫ってくる。
「っ……!」
これは覚悟しないといけないかもしれない。
エリックは木片ごとチヨメに腕を回してぎゅっと目を瞑る。
もう一度全身に波を打ち付けられたところで、エリックの意識は途絶えた。
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