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「フィクサー」というのも、随分と持って回った言い方かもしれない。
須藤隆一郎は、この界隈で戦後の闇市を仕切っていた須藤鋒山の息子にあたる。
もともと鋒山とて、ヤクザと区別もつかない男だった。
だが、その才覚で「実業家」として経済方面に特化し、その内に「街の名士」にのし上がった。
今は政治家と「ズブズブ」の付き合いで、もちろん裏ではヤクザとも上手くやっている。
要はそんな手合いだった。
組の若頭から直々に声が掛かり、菁は、その須藤隆一郎の前に連れ出された。
須藤は、どうやら利権がらみで他県とゴタゴタがあり、「ちょっとしたボディーガード」を必要としているだとか、そういう話のようだった。
「……この小鳥遊のヤツは、まあ極道にしちゃ頭の方も、そこそこ中身が詰まってましてね。先だってもFXで……」
「ああ、上手く相場を張ったそうだな。耳にした」
湯飲みを片手に須藤は頷く。
「とはいえ、コイツもガキの頃は、それなりに『ヤンチャ』やってまして……」
若頭が、どこかのらりくらりと続けた。
「結局ンとこ、『生まれ育ち』は争えねぇってとこなのか、まあコッチの世界に来ちまったってワケで。見ての通り、愛想も何もないヤツですが、ともかくいずれにせよ、度胸も腕っぷしも間違いないところですから」
そんな、誉められたのかけなされたのか分からないような推薦を受け、菁は須藤の私邸の「護り役」として、屋敷に詰めることとなったのだった。
若頭からは、制服めいて細身の黒スーツを着させられ、しっかりと「ハジキ」まで持たされた。
ったく……。
こんなモン、もし、俺が「ここ」で本当にブッぱなしでもしたらどうなっちまうんだか。
まあ、拳銃を持った人間の出入りを認めている時点で、須藤側も、どうにも言い訳できないところだ。
俺だけが即、警察に突き出されるってこともないだろうが……。
菁は、そんな風に溜息を噛み殺しつつも、ごく淡々と役割についた。
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