小鳥遊菁の事情

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**** そんな―― 張り詰めた空気に漂う甘い性の匂いが、男の欲望を刺激しないワケはない。 紗和の、寝乱れた感じすら一切みせない、滑らかな絹浴衣の襟もとから覗く首筋の白さ。 淡い色に膨らんだくちびるが、思い浮かんで。 あの壊れそうに細い指先が、一体、どの部分を弄っているのか。 菁の妄想は、きりなく広がった。 布地を突き上げて薄く透ける紗和の 首の立ち上がりを思い出せば。 そこを自分の手指でいやらしく嬲っているのだろうかと、菁の想像は止まらなくなる。 仕事を終えて自室に引き取れば、堪えきれず、すぐさまにスラックスから自分自身の猛りを抜き出し、扱き上げるのが、もはや菁の習い性のようになった。 あの人形めいて透明な表情のまま。 くちびると同じ色の乳 を 核を、淫らにこね回しているのだろうか。 しかし、色のついた声を決して漏らさぬよう、息だけは懸命に押し殺しているのだ―― そう思えば、菁の欲望は、たまらなく加速した。 「ならば存分に啼かせてやろう」と。 菁は妄想の中で、その身体に触れる。 指が蜜まみれになるまで、紗和の入口を、陰 を弄り、胸の尖りをくちびると舌で舐って嬲った。 そして大抵は、その妄想が自らの挿入にいたるよりもずっと早くに、菁は達して果てた。 **** その日も、また襖の向こうの空気が変わった。 紗和の自 が始まったのだ。 しかし、紗和は、今日はなかなか「イケない」ようだった。 震える空気がドンドンと張り詰めて、甘い熱を孕んでいくのに、ふと力尽きたようにして、それが緩んでしまう。 苦しげな呻き声が、襖を通して控えの間の空気を震わせた。 もしかして、具合でも悪くしているのでは、と。 菁も不安を覚え始める。 「……お嬢さん? どうかなさいましたか」 襖を隔て声を掛けるが返事はなかった。 躊躇はしたが、菁は襖を開け、中の様子をうかがうことにする。 紗和はベッドの上に横たわっていた。 布団は跳ねのけられ、帯の下の打ち合わせはしどけなくはだけて、白い腿の付け根までが露わになっている。 枕にきつく顔を埋めて、紗和は肩で激しく息をしていた。 「大丈夫ですか」 いま一度、そう声をかければ、紗和がゆっくりと菁を振り返った。 大きな瞳は、零れ落ちんばかりの涙に潤んでいる。 噛み締めたくちびるは深紅に染まり、耳朶も濃いピンクに色づいていた。 紗和は、瞳を揺らしながらも菁を見つめ続けている。 どうしたものかと、菁は困り果てる。 今さら、無言で立ち去ることも難しかった。 ――まさか、オ ニーを「気づかれていない」などと、思っていないだろうな?  そんな、ふと意地の悪いような気持ちも芽生えていた。 紗和は何も言わずに、ただ菁を見つめていた。 そして、自分の手を胸の合わせに挿し入れ、もう片方の手を脚の付け根へと押し当てる。 くちり…と。 肉襞を割り開くやわらかな音がした。 そして、粘液を掻き回す水音が始まる。 紗和は胸の尖りと陰 とを、同時に小刻みに擦り上げた。 長い睫毛を瞬かせながらも、紗和は、菁から目を離さない。 けれども、快感が高まってくるとともに、疲れも増すのだろう。 懸命に下を嬲れば、上がおざなりになる。 何度も、 首から、ふわりと指が離れた。 その度に、立ちあがっていた淡い桃色の尖りが、見る見る力を失くしていく。 菁は、ただその場に佇んでいた。 ほんのわずかも、表情を変えぬままに。 紗和の腰が蠢き始める。 あらわになった真っ白な内腿に、ひくり、ひくりと力が入るのが見て取れた。 「っ……あっ、あ」 唾液で濡れたくちびるから声が洩れた。 瞼がきつく閉じられる。 達し終え、紗和の身体からクタリと力が抜けた。 その身体をそっと上掛けで覆い、菁は部屋を出た。
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