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「ありがとう」
ヨシカはそう言って手を合わす。
さっき名前を聞いたが、もう覚えてない。いや、記憶さえしなかった。
30歳くらいのおじさん? だ。
殺した相手にはいつもそうやってヨシカは礼を言う。
相手に恨みはない。誰かも分からない。
所謂、無差別殺人という奴だ。
ナンパされてついて行き、相手の部屋で殺した。
殺し方は毒殺である。
青酸カリを入れたカプセルを適当な口実で飲ませる。
勢力強壮剤とか言えば大体平気だ。
どこでそんなものを手に入れたかと言うと、ネットで知り合った自殺志願者のおじさんに貰ったのだ。
そのおじさんは良い人で、初めてヨシカに死ぬ所を見せてくれた人だ。
夜、砧公園の林の中でおじさんはヨシカの前で毒を煽り、苦しみながら死んだ。おじさんには家族はなく、最後に誰かに看取って欲しかったらしい。
少し前まで薬剤師の仕事をしていたが、鬱になってやめたという話だった。
年齢は28歳だった。
おじさんがどんな人生を歩んで来たは知らないけど、苦しみもがく姿は、いい死にっぷりだった。
死にたいと願う心と、生きたいと願う肉体の、生死を掛けた戦い。そんな感じ?
その時に、おじさんのポケットから、残りの青酸カリ入りのカプセルの入った小瓶を拝借した。
カプセルの数は後7つ。
今までに、おじさんを含めると4つ使った。
急いで部屋を出る。
予備校が始まるのが19時からだから、ギリギリ間に合うだろう。
こんな事をやってるといつかは捕まるだろうけど、でも平気だ。
14歳以下は、少年法云々だけでなく、刑事罰も免除される。
20歳になるまで10年近くあるから、顔も姿も変わるだろうし、名前だって変えれる。後1年は突っ走れる。
破滅に向かって突っ走っても、大人と社会のセーフティネットが私を救うのだ。楽勝である。
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