さわやか体重計

2/3
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「最近仕事にあぶらがのってきたね。もう少しやせればキミはもっとてかり輝くよ」  さわやかイケメンの声が部屋に響いた。でも、なんだか嬉しくない。  首をかしげつつもう一度乗ってみる。 「あぶらカタブラ! あぶら退散!」  よけいに、わけがわからない言葉になった。ただを言いたいだけのようだ。 「イケメンが……なにを言っても許されるとおもうな!」  体重計を持ち上げ、両手で相手の顔を抑えこむような感覚で抱えこみ、睨んでしまった。  目の前にあるのは人ではなく体重計だ。返事はない。無言で体重計を見つめる。  気づけば、あぶら汗が流れてきていた。ノーマルの言うとおりにあぶらぎっている自分に落胆しながら、モード変更に手を伸ばす。  モードはイケメンのノーマル、エス、エムと少女の四種類。 「ノーマル以外ならなんでもいいや」  エスに設定し、深呼吸をしてから足を置く。 「このメスブタめ」  どうやら、サディストのエスだったらしい。  強気な言葉で叱咤してくれるというわけか。意味不明なあぶらまみれのノーマルよりはいいかもしれない。  少しわくわくして、再び乗ってみる。 「俺様に豚足(とんそく)乗せるな」 「今度はブタしばりかっ」  私はまた体重計を顔面に掲げて叫んでしまった。 もう期待せずにモードを少女に変更する。  どうせ、エムはマゾヒストだろう。想像がつくエムより少女のほうがまだ気になる。 「歌って踊ってカロリー消費しよう」  乗ったら、アニメヒロイン的な声が出てきた。とおもったら、ポップな音楽が鳴りだし歌いだした。  私には苦手なものがある。アイドル系の曲だ。  そっと電源を切って、ソファにこしかけた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!