19.Trèsor――Ⅲ(6)

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 それ以上に大事なことを、頭からすっ飛ばしてしまってはいないだろうか?  いい大人のはずの彼らは。  命を懸けるほど互いに望んで望まれる相手がすぐそこにいるのに。  そこが一番大事なところではないのか。  互いの気持ちをはっきりと伝えあってすらいないで……この二人はいったい何をしているのだ?   何やら無性に腹が立ってきた。  一番大事でシンプルな一言を互いが口にしていないせいで、しなくていい回り道を彼らがしているように思えてならない。  そのせいで、とんでもなく迷惑を被っている人間がここにいる。  ……と言っても半分以上失恋の痛手と八つ当たり気味なこの心境以外のなにものでもないのだが。  その自覚も確かにあるのだが。
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