19.Trèsor――Ⅲ(6)

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「……やってらんねえ……」  完全に据わった目でボソリとつぶやく翔に、ケンジは気付いていない。  彼がグローブのみを装着し終えたのを確認して、憮然としたまま足早に青いリングに上がる。  どうあってもギアは必要ないらしい。(こんな素人相手では当然と言えば当然だが) 「んじゃ軽くマスでも……」 「や。スパーで」  ケンジの提案を遮って、最後のアップとばかりにステップを踏みながらグローブを打ち鳴らす。  この心境で、『当たっても打ち抜かない位置取り確認と練習』などしていられるか。  冗談ではない。  打ってこいや。そして打たせろ。思いきり。  そんな思いを込めたひと睨みを真正面からケンジに向ける。
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