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正義side
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翌朝。目を開けるとホテルの天井が視界に映る。
「ーーー!!」
次の瞬間には考えるよりも先に、上半身から布団を振り払い部屋を見渡す。
「先ぱっ…、…っ!」
「…すー、すー…」
「あ」
探していた譲は、まだ同じベッドの中で気持ちよさそうな寝息を立てていた。
(はじめて譲さんより先に起きたな)
無防備な姿に安堵の息を吐くと、再び身体をベッドに預けた。
何度もキツく腕の中に閉じ込めたつもりなのに、翌朝になれば譲はいなかった…。ひとり冷たいシーツを撫で、残り香を嗅ぐだけの虚しい朝が、今日は違う。
チラッと時計を見れば時刻は6時。このホテルは職場から近いし、まだ起こす必要もない。
せっかくなので寝顔を堪能しようと心に決めた。
(こんなに疲れてたなら、呼び出しを断っても良かったのに…)
そーっと譲の前髪を搔き分けると目の下には隈が出来ている。それが気に食わなくて心の中で舌打ちをするが、相変わらず長い睫毛も肌触りの良い白い肌も、人形のように綺麗だ。
よほど疲れていたのか譲の目は固く閉じたまま、穴が開くように観察されていることにも気づかない。
「………」
依岡 譲…
その名前と存在を、忘れた日はなかった。
譲との出会いは、桜井が高校1年の時。
全校集会が終わり、友達らと一緒に教室に戻っている途中のことだった。
「んぁ?なんだアレ?」
友人が指さした方を見れば、廊下で生徒達による人集りができていた。
一人の教師が慌ただしく、「αの生徒はこの先に行かないように!」と大声で注意をしている。
「なぁ、何があったのか?」
その場にいた生徒からの話によれば、Ωの生徒が発情を起こし、近くにいたαが影響され襲い掛かったという事故だった。
「げっ、マジかよ」
「βの先輩がαを押さえ付けてくれたから事なきを得たんだけど…」
その時だった。騒いでいた生徒達のどよめきの声が大きくなったことに気付き顔を向けると、ひとりの生徒がこっちへ歩いてきた。
「――――、っ」
その人を見た瞬間、ぶわっと鳥肌が立った。
気が強そうなキリっとした瞳と、αと揉めたせいで乱れた黒髪。シャツのボタンもとれてしまったのだろう、白い首筋からは色気も漂う。
固く閉じた口から表情は読み取れないが、一瞬で魅了されてしまった。
どこか色めき立つ生徒達を無言でかき分け歩く様は、自らの善行を誇っているというより、ただ堂々としている。
あぁ、きっと全員 目を奪われたのだろう。
激しく高鳴る心臓の鼓動。
熱くなる体温。
本能と感情が、訴えていた。
そうか。この人が俺の―――――・・・
「………なに?」
目の前を通り過ぎようとする先輩の腕を掴んだ無意識の行動に、近くにいた友人たちが躊躇うが―――
気持ちは既に決まっていた。
「俺と付き合ってください」
この人が…
依岡譲が、俺の運命だと
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