3個目(22.1.5加筆・修正済)

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「まだ雨降ってますねぇ。営業担当者さんたち大丈夫かしら?」 (………) 桜井と譲の肉体関係が週に一回に落ち着いた以外、二人の間にはこれといった変化はなかったが、職場内の空気は少し違っていた。 桜井正義は基本的に人当たりがいい。加えて真剣なあまり仏頂面になろうと無駄にいい顔立ちは営業先でも大変ウケがいいらしい。 疲れた顔を見せずニコニコと会社に戻ってくるので、譲以外の社員達は毎回癒されすっかり和んでいた。 (見てくれに簡単に騙されやがって…) デスクワークの方は、ちゃんと理解すれば特に目立つミスもなく円滑に業務こなすも、相変わらず譲にべったり甘えている。 『譲さん!俺、今日新規契約とれました!』 ドヤ顔で報告されると教育担当者として無下にも扱えない。 褒められ喜ぶ姿が犬や弟っぽくて可愛いと女性社員から高評なのも余計腹が立つし、なんなら誰かが告白でもして桜井と付き合ってくれればいいのに…と心底願うが、どうやら"抜け駆け防止"という協定を彼女たちは結んでいるらしい。 (あれがなきゃ絵に描いたようなα様だってのに なんで犬みたいな、……ん?) 「さ、桜井さん!?どうしたんですか、全身びしょ濡れじゃないですか!?」 「それが帰りに車の水はね被害に遭っちゃいまして…ははは」 今朝からの大雨。 こんな日に営業周りなんて不運なやつだと思っていたがオフィスに戻ってきた桜井は洒落にならない、とんだ災難に見舞われていたらしい。 「ひっどーい!風邪でも引いたら大変ですよ!?」 「すみません、ありがとうございます」 彼女は素早くタオルを持ってきて桜井を気遣っているが、その頬は少し赤く桜井も嬉しそうに笑っている。 (……ちょっと濡れたぐらいで大袈裟なんだよ) いっそ風邪でも引いて、ちょっとは大人しくなってくれると有り難い。 「あ、譲さ、!」 「さっさと乾かして報告書用意しろ」 俺は忙しいんだ。 そんな気持ちで見ていると桜井と目があったが、すぐ目を逸らした。 その翌日。 「は?桜井は風邪、ですか」 通りで朝から静かだと思っていたら、昨日の冷や雨に打たれたのが原因らしい。 …。 馬鹿でも風邪を引くのは本当だった。 (なら、今のうちにA社の見積もりと会議のデータをまとめたら…あとは急ぎはない、か…?) デスクに座ると違和感があった。 (…?? 仕事に余裕がある?) 手が空いてるなんて、こんなこと今までなかった。 最近は職場に残っていると桜井が「俺で良ければ手伝います!」なんてお節介を焼こうとする。 あまりにもしつこいから、ならやってみろ!と任せてみるも結局質問攻め。 (あんまウルサイから、ほぼ手前の仕事だけで切り上げてたな…。ぶっちゃけ残業してまで他のヤツの仕事を引き受けられる状態じゃなかったし…) チラッと周囲を見渡すと、特に変わった様子は見受けられない。 …のに、ちょっとした質問や書類確認をお願いされるくらいで、仕事を振ってくる同期や先輩後輩は現れなかった。
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