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そして迎えた、飲み会の日。
昼休み。譲は、前々から相談していた上司に辞表を提出した。
(相談っていうよりは、決定事項だったけどな)
桜井ではなくとも理想のαを見つけたなら、有村と引き合わせ辞めるとずっと前から決めていた。
予定なら、ちゃんとうまくいくか番いになるまでを見届けたかったのだが、自分はここにいない方がいい。
淡い初恋相手との再会によりテンションがあがっていただけで、そのうち落ち着けば桜井も我に戻る。
「本当にいいのかね?」
「はい。やっぱりI社の担当は、俺には荷が重すぎて…。まだ大きな仕事を持たされていない、今がチャンスだと思いました」
「まぁ、依岡くんは異動したばっかりだしな。事務の方は、引き継ぎが終わってるみたいだから…デスクの片付けが終わったら、後は有給消化にしようか」
こんな会社でも話のわかる上司は何人かいて、トントン拍子に話はまとまる。いままでロクに有給を使ってなかったこともあり、月曜からはほとんど出社せずに退職することが決まった。
「んじゃあ、あとは送迎会を…」
「実はこれを機に県外に行こうと思ってまして…引っ越しの手続きで忙しくなりそうなので結構です」
なるべく知られる前に、ひっそりといなくなりたい。
送別会などしたら、次は何をするのか?どこに行くのか?連絡先を教えてくれなど言われる可能性がある。
酔っ払いの騒ぎに付き合わされ、鬱陶しいことこの上ないだろう。
「長い間、お世話になりました」
そして最後にもう一つ。
この土地を離れる前にしておく重要な行動に出た。
それは……。
「……久しぶり」
「、…依岡先輩」
元セフレ…田中歩への謝罪。
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