1個目(21.12.19加筆・修正済)

6/8
前へ
/59ページ
次へ
* * *  今日も今日とて、夜にやってることは繰り返し。 けれど太い契約はとれたし、譲のおかげといっても差し支えない。 ただクソ会社からの評価に期待なんてしちゃいないから、これは元々の担当者が引き続き請け負うこととなる。 (……だるい) 関わっていないのに依岡譲を出せと、他社から問い合わせや接待を求める声。 この事態に会社のお偉いさんたちが気付いていないはずがない。 その証拠に退職されると不味いと思ったのだろう。 『君は頑張ってるから、ちょっとだけ特別支給ね…』と謎の手当てが支払われていた。 ―――黙認・大人の常識。 なんて使い勝手のいい言葉か。 (今日のαは、やっぱイマイチだったな…) 男がいなくなったホテルのベッド上でひとり笑う。 けど羽振りはいい。男は帰ったが、ホテル代と謝礼金を置いて帰って行った。 ホテルのベッドの上で自販機で買った缶ビールを飲みながら、やっと一息つけた。 (そういや、こないだのα…。ちゃんと顔見なかったな…) ヤケになって相手してもらったのに、顔も名前も記憶にない男の存在を思い出した。 利害の一致もなく、βと寝てくれるαなんて…。 αとは頭が優秀な故にちょっと性癖が特殊なのか? いや、そもそもアイツがαだったのかも怪しい。 けれど鼻腔をくすぐった懐かしくも、甘い匂いがした。 「はー…、チョコ食べてぇ」 ふと、TVで特集されていた有名ブランドのチョコレートが目に入った。 疲れているせいか、無性に脳が甘いものを欲している。 思い返すと今日食べたのは、昼のカップラーメンくらいだったな…。 プツンとTVを消し、一人で寝るのには広すぎるダブルベッドの上に寝転ぶ。 明日は早起きして、近くのカフェで美味しいコーヒーとトーストでも食べよう。 あぁ、けど抱えている仕事が全部終わらなかったから、早めに出社しなければ…。 (午前までに、仕上げ…、ないと…) 自然と瞼がおりてきた。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

174人が本棚に入れています
本棚に追加