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2個目(21.12.27加筆・修正済)
男と女がいて、第二性の「α・β・Ω」へと続く。
能力が高く優秀でエリートな奴が多いα。一番数が多くとくに第二性の影響を受けることがないβ。
そして、男であっても妊娠・出産ができる希少なΩ。発情期を持つΩは社会に出てもハンデがあり、カーストは最下位。
しかし、現代では某有名大学やらの研究データや各国の考え方、メディアのおかげでΩ性への偏見は薄れつつあり、今や軽い抑制剤くらいならコンビニやドラックストアでも買える時代だ。
(で、消える差別だったら、どれだけ平和だっだろうな…)
考えや見方を改める人間もいれば、ガチガチに凝り固まった価値観を変えられない大人や政治家も大勢いる。
とくに珍しい男のΩはいまだ"人種"として劣っていると、偏見が消えない。
【Ωは発情フェロモンで自分の気に入ったαを誘惑し、堕落させる獣だ】
Ωを危険視するデマ情報を流せば、先入観を持った子供たちはΩを忌み嫌いだす。
譲だってそうだ。べつに最初からΩ性を嫌っていたわけじゃないはずなのに、気が付けば馬鹿にする対象になっていた。
セフレにした歩にすら、彼の前では優しく振舞った一方、裏では散々蔑んだ。
「依岡もさぁ、よくあんなパッとしない奴をオナホに選んだよな?すがに飽きたんじゃね?」
「まぁ最近はデートしたいなんて調子に乗り出したし、捨てる頃合いかもな」
「けど、Ωって希少じゃん?具合がいいなら、一回くらい貸してよー」
褒めるより貶す言葉は、口から勝手にポンポンと出てくる。
そんな品のない自分に嫌気がさしたし、歩が「Ωだから」声をかけセフレの関係を持ったが、どうにもパッとしない外見とオドオドした態度は、時々イラっとする。
(そろそろ、頃合いか…)
『終わりにしよう』と譲が言えば、歩はすんなり身を引くだろう。
でも、もし自分がα性だったら、アイツはどうした?
ふとよぎった脳内の声に、ゾワッと鳥肌が立った。
あんなに俺のことを好きだと言った口が、俺の下で激しく乱れていた歩が、―――― 結局はαを選ぶのか?
(馬鹿馬鹿しい…。βとΩじゃ、どうにもならねぇだろ)
下手すれば、お互いが不幸になる。
そう思う。分かっている、誰もが知っている。
所有物が自分の手を離れた瞬間、違う人間のものになるのが嫌なのか。
それとも、他人に幸せそうに笑う姿をみたくないのか…
答えが出ない自分自身に動揺し、手放すに手放せない日が過ぎていた…が、
ついに、ひとりの"α"が歩に目を付けた。
セフレだからと干渉せず、あんなにほったらかしたくせに…
キスはしても、デートすらしたことがない。
好きにも愛にも応えず、なにも与えなかった自分が、いざ手元のΩを失うと知って、"α"に激しく嫉妬した。
あんなにセフレ関係を解消したいと願っていたくせに、こんなにも苦しい。
Ωはαのモノだ。
αと番える真っ白なΩを、ただのβがどうこうできるはずがない…
(なら、壊せばいい…)
どうせなら二度と番えなくなるよう、
αが、トラウマになればいい―――…
『Ωとヤりたくないですか?』
そして、過ちを犯した。
* * * *
ホテルの一室。
今日で三度目になる、桜井からの呼び出し。
「…、お前、ゴムすんだな」
セックスが終わりゴミ箱に入れるそれを見ながら出た一言。
桜井正義とは、とことん律儀な男だと思う。
しつこいくらい後ろを慣らしてくるし、無理じゃないかと何度も聞いてくる。あと約束通りチョコレートも持ってきた。
戯れなんて不要だ。さっさと中に入れて達してもらいたいのに、酷く優しい手で俺を扱う。
「あと、お前のソレ…」
「あ、あの…そんなに見られると恥ずかしい、と言いますか…」
「見られて恥ずかしいんなら隠せよ」
男の中心部にあるご立派様をマジマジと見つめてしまった。
それがさっきまで自分の中に入っていたのが人体の不思議である。
(え…待て。俺のケツが緩くなり過ぎたとかじゃないよな?)
そんな馬鹿なことを真剣に考えていると服を着た桜井が当たり前のようにベッド中に入ってきて俺を抱きしめようとするから、その腕をつねった。
悪いがお前とイチャイチャしたいとは微塵も思わん
「っ、こんな時くらい素直になりませか?」
「うっせー。お前と違って、俺は明日も早いんだ。さっさと寝ろ」
寝返りを打ち桜井から背を向ける。
そういうのは恋人にやってやれ、とボヤけば「そんな人いませんよ」と当たり前のように返ってきた。
「俺って、そんな不誠実そうな男に見えるんですか?」
「……よくβに飽きないな、とは思うぞ。物好きめ」
まぁαに抱いてもらいたい俺も、たいがいか…。
「譲さんの中、いつも最高ですよ。貴方にも教えたいくらい」
「やめろ、気色悪い」
αに抱かれるのは好きだ、その相手は別に桜井じゃなくてもいい。
カーストの頂点がそこら辺にいるβに興奮し、無駄な射精をする。その行為に、たまならい優越感を持てた。それにアイツらはだいたい重役ポジだし金回りがいいおかげで、ちょっとした時に役に立つ。
(そうじゃないコイツは、…なんなんだろうな)
いや、考える必要なんかない。
面倒を見ることになった職場の後輩。あと、ちょっとした誼で、セフレ関係になったが、約束通り対価であるチョコをくれたから…。
αに抱かれたい俺と
βの俺を抱きたい桜井。
その利害が一致した。
それ以外、なにもない。
無理矢理納得させて、目を閉じた。
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