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小松 美穂子
正直言うと、琢磨は裕之の事を好きではなかった。いつも、彼が琢磨に要求するものは、いつも琢磨にとって困難なものが多くて、出来れば逃げ出したくなるようなものも多かった。彼にとっては苦痛に他ならなかった。もう三十路を遠に過ぎた自分にとっては裕之のお節介とも思えるその行為は、苦痛に他ならなかった。
「それじゃあ、今晩、家で待っているから、来いよ!美穂子も待ってるからな」裕之は言い残すと部屋から出た行った。
今日の夜、なぜか裕之の家で夕食を食べる約束をしてしまった。そして彼の言った美穂子という名前を聞いて、更に気が重くなってしまった。
小松美穂子・・・・・・・、その名前を聞くと琢磨の胸が苦しくなってしまう。彼女も、琢磨や裕之と同じ中学生の頃からの同級生であった。どんな相手にも隔たり無く接する女の子で、トンマと呼ばれる琢磨にも、屈託のない笑顔で接してくれた。数少ない・・・・・・・、いや、皆無の女子であった。もちろん、そんな彼女に琢磨は魅かれていた。今までの一生の中で好きになったのは、後にも先にも彼女だけであった。彼女に話しかけられるだけで、琢磨の一日は薔薇色一色で染まったものである。
ある日、琢磨は意を決して美穂子に告白した。しかし、彼女の返答はNOであった。好きな人がいるという事だった。その相手は裕之であると告げられた。琢磨は絶望感に打ちひしがられる。振られることはある程度覚悟していた。彼女に好きな人がいるであろうことも予測していた。しかし、その相手がまさか、裕之であることに、深い絶望感を感じてしまった。そして、それは深い敗北感でもあった。それから間もなく二人は付き合い始め、高校、大学を出て、裕之が成功を修めた頃、結婚した。琢磨も結婚式に呼ばれたが、さすがに出席する気持ちになれなくて欠席してしまった。
出来るのであれば、2人が幸せに暮らす姿など見たくはない・・・・・・・、それが琢磨の気持であった。
「はあ・・・・・・・・・・」ゲームコントローラーを床に置き、ゲーム機のスイッチを切ると彼は深いため息をついた。
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