試 合

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試 合

「おい、あれトンマじゃねんえの?」 「あ、本当だ!なぜここにトンマがいるんだ?」同級生らしき男子達の声が聞こえる。しかし、彼らの顔を琢磨は覚えていなかった。それほど、彼にとってクラスメート達との距離は遥か遠くにあった。 「おい、琢磨!美穂子!準備運動するぞ」裕之が彼女の名前を呼捨て、それも下の名前を呼ぶ事に心を搔き乱される。目の前に立つ、彼は道着の下に袴と凛々しい剣士の姿、それに対して少しピチピチのジャージを着た琢磨。誰の目にも滑稽に見えるであろう。彼方こちらからあざ笑うような声がする。美穂子の前で嘲笑される自分が恥ずかしくて穴があったら入りたい気持ちであった。 「琢磨君、大丈夫?」美穂子が心配そうな顔をして琢磨を見つめる。どうやら、消沈する彼の顔を見て、彼女は具合が悪いと勘違いしたようだった。 「あ・・・・・・・、俺は・・・・・・・」 「コイツなら気にしないで大丈夫だ!」裕之がまるで何もかも解ったかのような口調で琢磨の言葉を遮った。 「で、でも・・・・・・・・」美穂子は琢磨の顔を心配そうに見る。 「お、俺は大丈夫だから・・・・・・・」琢磨は美穂子を安心させるように笑顔を見せた。その表情を見た裕之は気に食わなそうな表情をする。 「そうだ、琢磨!ちょっと試合してみないか?」唐突に裕之が竹刀差し出した。 「い、いや・・・・・・、俺は・・・・・・・」もちろん試合はおろか、竹刀さえも握った事は無かった。 「おお、面白いやってみろよ!」 「どうせ勝負は見えてるけどな」周りの道場生達が囃し立てる。 「どうした、美穂子に良いとこ見せたくないのか?根性なしと思われたいか? 」裕之が耳元で小さな声で囁く。その瞬間、裕之の持っていた竹刀を奪い取った。 「た、琢磨君・・・・・・・」美穂子の目が止めるように訴えているようであった。だが、その瞳が余計に琢磨の背中を押してしまう。 「ぼ、防具を貸してくれ」琢磨が言うと、道場にある防具が目の前に置かれた。胴を当てようとするが、酷く窮屈であった。小手もなかなか手が入らない。そして頭に手ぬぐい、面を被る。 「ぷぷぷぷ」周りから失笑が聞こえる。どうやら、防具をつけた琢磨のすが谷笑っているようであった。そして、目の前に綺麗に防具を着こなした裕之の姿があった。それは、琢磨とは全く対局にある姿であった。 「よし、始めるか」裕之はその言葉を口にすると、竹刀を上段に構えた。 「う、うわー!!」全く何をしてよいか解らない琢磨は、竹刀を振り回しながら突進して行った。  その結末は誰もが予測していたものであった。
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