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夜遅く帰って来た静流の両親に獣のように交わり続ける俺たちは見つかり、離された。
俺の愛しい番をどこへやるんだ!それは俺のモノだ。誰も触れるな!
本能の赴くまま静流の両親にさえ牙を剥いたが静流の両親は共に上位のαで、俺なんてすぐに取り押さえられてしまった。
暴れる俺はそのまま抑制剤を打たれ、次第に冷えていく頭。
冷静になって初めて自分のやってしまった事の大きさに青ざめた。
俺は親友の静流にひどい事をしてしまった……!
静流はαで俺はβで二人は親友で、それは一生変わらないものだと思っていた。
なのに俺はなんて事をしてしまったんだ…。
後悔の波が押し寄せる。
「―――静流は……今…どうしてるんでしょうか…?」
静流の両親は硬い顔で俺の事を睨んだまま、膝の上で握りしめた拳が震えている。
「上田君、この状況から静流はΩでキミはαのようだ。二人は番になってしまった…。αのキミは静流と別れたとしても何ら問題はないがΩの静流は違う。番になってしまった以上キミと無理に離せば体調を崩して死んでしまうかもしれない……。―――だが、あの子は今回のことを覚えていない」
「え…?」
「それだけショックだったという事だろう。そこでだ、キミはβとして静流の傍にいる事を許すから静流のフォローをお願いしたい。静流はαとして生きるんだ。周囲の誰にもくれぐれも番だとは気づかれないように。勿論静流本人にもだ。項の傷はひどい怪我をしてしまったとでも言うよ。キミは静流の傍でただ静流の事を守ってくれたらいい。傍にいるだけで記憶にはなくても精神は安定するはずだから。いいね?」
「―――――はい…」
それしか言えなかった。
静流の両親の言い分は一方的なものだった。
拒否する事もできた。
だけど俺は静流の事を傷つけた。
記憶を失くしてしまうくらい俺との事が嫌だったんだ。それでも俺は静流の傍にいたかった。
だから…離されて一生会えなくなるよりは、と受け入れたのだ。
ただ傍にいられるだけで……静流の事を守ってやれるだけで、それだけでいいと思わなくてはいけないんだ。
確かに手に入れたと思ったのに。
静流と俺はこんなにも遠い。
広げた手の平を見つめ、指の間からするりと何かが零れていったように思えた。
俺はその日から静流にとって親友でも番でもなく、表面上は親友のままただの精神安定剤になった。
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