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すれ違う想い S
目を覚ました僕は意識のない未来にしっかりと抱き込まれていた。
さっきは得体の知れない不安と身の奥からせり上がってくる何かに怯えていたのに、未来の腕の中はすごく安心できる場所で、幸せすら感じていた。
僕が幸せに浸る中、途中あのΩがいる隣りの教室が騒がしかったがすぐに静かになり、僕の意識の中からも消えた。
しばらくして連絡を受けた両親が迎えに来て僕たちを引き離そうとしたけれど、僕は未来の傍から離れたくなくて必死に未来にしがみついていた。
未来の両親は共働きで、意識のない未来を一人にしたくなくて未来の両親が迎えに来るまでの間だけ、と無理を言って未来を僕の家に一緒に連れて帰った。これで離れなくて済むと思ったのに部屋は別けられてしまった。
未来の傍にはβの年配のメイドが付き添っており一人ではない事にホッとするが、できれば僕が付き添いたかったと思う。
僕の部屋にも年配のΩのメイドが控えていたが、僕が目覚めると両親へ報告するために部屋を出て行った。
未来は近くにいないとは言え、同じ建物の中にはいるのだから我慢しなくては。
これ以上の我儘はダメだ。
未来の姿を見れない事に不安を覚えるが、嗅ぎ慣れた自分の匂いと今も僅かに服に残る未来の匂い。スンスンと鼻を鳴らし、自分のベッドに横になり少しだけ落ち着く。
あの時僕はいつも僅かにしか香ってこなかった未来のライムのような爽やかな香りを沢山嗅いだ。そしたら身体が熱くなって未来の事しか考えられなくなった。
コロンか何かだと思っていたけど、あれはフェロモンだった?
未来からフェロモンが異常に出たのはあのΩのせい?
だとしたら未来はβじゃなくて―――α…?
そして僕は……未来につられて―――?
――――え?じゃあ……。
今まで頑なに見る事をしなかった自分の項を震える手で手鏡を持ち姿見と合わせ見てみる。
そこにはしっかりと噛み跡が…番の印が刻まれていた。
――――僕は―――Ω…?
その途端雷に打たれたかのように流れ込んでくるあの日の記憶。
僕が未来を誘惑して項を噛ませた記憶。
勿論わざとなんかじゃなかった。
自分のことはαだと思っていたし、あの時何が起こったのか分かっていなかった。
だけどどんなに言い訳をしてみても事実は変わらない。
僕はΩのフェロモンを使って未来を僕に縛り付けてしまったんだ…。
あんなに嫌悪していたΩの武器を使って未来を――――。
何がヒートを武器のように使うΩを軽蔑する、だ。
沢山のΩじゃなくて、僕自身に向けられるべき言葉だったのに。
僕が一番卑劣なΩじゃないか……。
番になってしまったらΩはαに捨てられたら生きてはいけない。
優しい未来は不本意な番であっても友人として傍にいてくれたんだ。僕が狂ってしまわないように…。
じゃなければ僕たちは番だって教えてくれただろうから……。
長年疑問だった答えが分かったのに、現実は思っていた以上に残酷で、それ以上何も考えられなくなりただ涙がとめどなく流れ続けた。
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