あの日のあなたに、ありがとう

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 もう、だめだ。  これで私には何もかもなくなってしまった。  和樹の荷物がすべて運び出されやけに広くなった、つい昨日まで二人暮らしだったこの部屋。射し込む夕日を背中に受けながら、その場に呆然と立ち尽くしている私には、もう流す涙さえ残っていなかった。  背後では11月の太陽がだんだんと沈んでいき、部屋の中はどんどん薄暗くなっていく。温度も下がって肌寒いはずだが、私には体の感覚さえも無くなってしまったらしく、もう何も感じない。  暗く沈んでいく二人の部屋を、私はそこに突っ立ったまま、ただ見守ることしかできなかった。  和樹はもういない。どこにもいない。私の世界を遠く離れて、知らない女のところへ行ってしまった。そして春には、子どもが産まれるのだという。  私が19歳、和樹が22歳の時からだから、もう10年以上の付き合いになる。そりゃあケンカもしたし別れる別れないなんて言いあった事もあった。でも、和樹とはずっと一緒にいるんだと、死ぬまで離れることはないんだと、そう信じて疑わなかった私。いま思えば、なんの保障もないんだし、二人の関係に確信を持つなんておかしな事だったと思えるのだけど。  とにかく、いつも和樹に頼りきって生きてきた私は、今ではもう片手片足をもがれたも同然。いつの間にか、一人ではまっすぐ立つことすらできなくなっていた事に気付く。明日からどうしたらいいのかわからない。もう、私にできることなんて何もない。  死のう。  私は死に場所について考えた。高層ビルから飛び降りる? 路上に無残に砕け散った自分を想像すると、恐ろしくなった。電車に飛び込む? バラバラの肉片になり線路にへばりつく。それに電車を止めた場合の損害賠償なんて支払うあては当然ない。だめだ。部屋で首をつる? これは唯一の肉親である弟の達也が、第一発見者になる可能性が高い。そんなかわいそうな事、できない。
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