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夢の中の少女
第三話 夢の中の少女
「なんだよ?みんなでしんみりして」
レオナルドはなにやらただよう空気を察知していた。
「なんでもないわ。おじさん、レオナルドをちょっと借りますね」
「馬鹿息子をよろしく頼みます」
「親父、そういうのやめろよ」
レオナルドは恥ずかしがりながら二人と合流した。
三人は林を抜けて先ほど来た丘を上がっていく。
「アレン、ソフィ、今日は何をするんだ?ワシでも捕まえるか?鳥の王者と戦いだ!」
「二人ともいつもそんなことしてるのかい?」
「それがねレオナルド、今日は手伝ってほしいことがあるの。秘密の扉よ」
「秘密の扉?」
レオナルドの目が輝いた。
「そうなんだ、僕とソフィで探したけどお手上げで」
「へえ、それは俺の得意分野だな。で、どこの家だい?」
三人はアレンの家の前で立ち止まった。
「へえ、アレンちか。もう招待してもらえるなんて嬉しいな」
「レオナルド、もしかしたら母さんが・・・」
「なあに、気にすることないさ。そういうのは慣れてるんだ。アレンが俺を友達だと思ってくれていればそれでいいよ」
アレンはレオナルドの透き通った瞳を見ていた。
「君っていいやつだな」
「あら、いらっしゃい!ソフィちゃんと・・・」
「レオナルドだよ、母さん。今朝話した」
「こんにちはご夫人、レオナルドといいます」
レオナルドは深々と頭を下げるとソフィと玄関に立った。
「あ、あら。アレンが言っていたレオナルドね。アレンがお世話になっているみたいで・・・でもねレオナルド、あなたは普通のお友達と遊んだほうがあなたのためにもいいんじゃないかしら」
「おばさま、私とアレンは普通じゃないんですか?」
天然のように微笑みながらソフィがすかさず言葉を挟んだ。
「そうよソフィちゃん、あなたたちには世間体というものがあるのよ」
母親も同じようにやたらと満面の笑みで答えている。
「母さん、そういう古い考えはもういいよ」
「アレン、レオナルドのことも考えてあげなさい。あなたが大人になったとき、レオナルドだけひとりぼっちになるのよ」
母親はまるでレオナルドのことを心配するように話した。すると次はレオナルドが前に出た。
「アレンのお母さまご安心ください。たしかに今はアレンたちが友達ですが、僕は庭師なので、将来は庭と友達になります!アレンの邪魔はしませんよ」
言葉の意味をわからず唖然としている母親の横を通り過ぎてアレンとソフィは無言で二階にあがった。
アレンの部屋へ入るとそれぞれ耐えていたものが解放され三人の笑い声が重なった。
「庭が友達って、笑わせないでくれよ。母さんもあっけにとられていたじゃないか」
「あらお庭に失礼よ。素敵じゃない」
「はは、アレンの母さんはどうやら将来を心配しているんだな。でも本当のことさ。アレンの邪魔はしたくないよ。で、あれが例の庭園かい?」
レオナルドは窓から覗く。
「そうなんだ、一階をまわったけど外への扉なんてどこにもなかったんだ」
「へえ、となると二階だな」
「二階?」
「少し二階全体をぐるっと見てきていいかい?」
「どうぞ」
レオナルドは部屋を出て行った。
アレンとソフィが残った。
「そういえばソフィ、幽霊じゃないけど、この家に来てからある夢を見るんだ」
「夢?昨日も変な夢を見たって言ってたわね」
「うん、それがこの屋敷の夢なんだ。女の子が出てきて、花が開いたらなんとかとか。あとは煙突掃除の男の子が出てきたり、この部屋の煙突に上ってた」
「ふうん、女の子がね」
「何かこの屋敷の歴史に関係しているのかと思ってさ」
「アレンは気になるの?」
「自分の家だからね。君だってこの家の噂気になってただろ」
「そうだけど、夢の中の女の子って現実より魅力的なんですもの」
レオナルドが戻ってきた。
「わかったぜ」
「ほんと?」
「この部屋と隣の部屋の間に謎の空間があるんだ」
「つまり?」
アレンはレオナルドが次何を喋るのか待てなかった。
「むこうの部屋の壁は何もなかった。つまりこっちの部屋さ。そのでかい本棚をどかしてみよう」
「まさか、僕の部屋に?」
「アレン、一緒にこっちから押してくれ」
「わかった」
「「せーの」」
「ギギギィ・・・」と本棚が少しずつ動く。
「頑張ってアレン、レオナルド!」
「なんて重いんだ。アレンこんなに読まないでくれよ」
「僕のじゃないよ」
二人は力を合わせて本棚を押す。
「ギギ・・」と本棚が大きく動いた。
「やったわ!」
現れたのは階段だった。
「ほんとうだ。レオナルドの言ったとおりだ」
アレンとソフィはレオナルドを称えた。
三人は薄暗い階段を下りていく。
「アレン、押すなよ」
「僕じゃない、ソフィが急かすんだ」
「仕方ないわ。一番後ろは置いていかれたら怖いんですもの」
扉を開けると、そこには秘密の空間が広がっていた。緑の草木は上から差し込む太陽の光に輝かされ、レンガ壁に伝うツタはこの誰にも邪魔されない庭園を守っていた。
「素敵。なんてロマンチックな所なのかしら」
知らぬ間にソフィが一人前に躍り出ていた。
「アレン、いいところに越してきたな君。ここずっと空き家だったんだぜ」
レオナルドは草木をチェックしている。
「でも、ずいぶん放置されてたみたいだな。この季節なのにひとつも花が咲いてないなんて、雑草が栄養を吸い取って花が咲くのを邪魔してるんだ」
「花?」
アレンは夢の少女を思い出した。
『花が開いたら・・・』
(雑草だらけの庭園。花が開いたらあの二人は喜ぶかな)
「アレン、どうかしたの?」
「え?いや、別に」
「ソフィ、こっちへきてごらんよ。水場は綺麗なままだぜ」
ソフィとレオナルドは水場まで近寄ると反射する水面を見ながら何か楽しそうに話している。
アレンは遠くから二人を見つめていた。
(絹のワンピースを着た少女とやぶれた服を着た少年・・・)
アレンの目には夢のあの二人と重なった。
「ねえ、身分違いの恋ってどうなるのかな」
レオナルドとソフィがアレンの方を振り向く。
「どうして?」
「どうなるって誰の話だい?」
「例えば煙突掃除の少年と、貴族の女の子だったらさ」
「子供の煙突掃除は廃止されたろう」
レオナルドは不思議そうにアレンを見た。
「いや、やっぱりなんでもないよ。そうだ、このことを母さんにも知らせよう。レオナルドの手柄だ」
アレンは階段をかけていった。
「アレンはいったい何の話をしていたんだ?」
ソフィは水面に映る、揺れる自分の姿を見ていた。
「ここに来てから夢を見るんですって。このお屋敷で、女の子と男の子の」
「ははーん、なるほど。アレンの片思いか」
顎に手を当てて面白がるレオナルドの姿も隣に映った。
「あら、夢の話よ。片思いなんかじゃないわ」
「ソフィ、まさかその子に妬いてるのかい?」
ソフィは少し眉間にしわを寄せてレオナルドを見た。
「レオナルド、夢の世界の人はどうやっても夢の人でしかないでしょう」
「実在していたら?」
「たとえそうでも私には関係ないわ。私は自分だけを見ていてくれる人がいいもの。アレンなんていつもどこか上の空で・・・」
「それならここにいるよ」
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