秘密の庭園

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秘密の庭園

第一話 秘密の庭園 緑に囲まれた丘の上には茶色のレンガで作られた屋敷があった。 アレンは父親と母親と今日からこの屋敷に住むのだ。 「お隣に挨拶してきてアレン。あとこれも渡してちょうだいね」 母親はアレンに菓子を持たせた。 「なんで僕に行かせるの?母さんが行ったらいいじゃない」 「あら、幼なじみじゃないの。今さら怖いことないでしょ」 「幼なじみって言ったって最近そんなに・・・」 アレンは気が進まなかったが仕方なく隣に建っている白いお城のような屋敷に向かった。 赤い薔薇で彩られた美しい庭が、白い唐草模様の門の奥まで続いている。 使用人に声をかけるとソフィが出てきてくれた。ソフィはシルクのリボンをつけた上品で明るい女の子だ。 「あら、アレンじゃない。よく来てくれたわね」 「やあ久しぶり。これ母さんが君にって」 「なあにこれ?クッキー?いい香りがするわ。ありがとう!」 「喜んでくれたならよかった」 「まあ、クッキーも嬉しいけど、アレンがお隣になったのが一番嬉しいわ。前はちょっと遠くてもあんなに遊びに来てくれていたのに、最近じゃちっとも訪ねてこないんだもの」 「それは・・・僕がソフィとあんまり会ってると母さんが期待するから」 アレンが気まずそうに視線をそらすとソフィはキョトンとした。 「なぜ?そんなの昔からじゃない」 「あの頃は子供だったからさ、僕らもう十七だよ」 「期待されるって何のこと?」 「だからそれはつまり、君んちと僕んちが・・・」 「おーい!ソフィー!」 元気な声が響き渡る。こちらに手を振ってかけてくる少年が見えた。 「あら、レオナルド。ちょうどいいところに来たわ」 「やあ、ちょっとばかり早くきちまったけど」 走ってやってきた少年は農民だろうか。あちこちに泥をつけてアレンたちとはかけ離れた身なりをしている。 レオナルドは膝に手をつくと荒い息を整えた。 「大丈夫よ、ね、紹介させて。例の私の幼馴染。ずっと紹介したかったのにアレンたらなかなか来ないものだから」 息を整えていたレオナルドは顔をあげると明るく笑った。 「へえ、君が噂のアレンか。色々話は聞いてたぜ。やっと会えたな」 「え?話って?」 アレンは正体不明の少年に戸惑っていた。 「うちの庭は全てレオナルドに任せているの。凄いでしょう?薔薇って難しいのよ」 「もしかしてレオナルドは君んちで働いてるのかい?」 「ああ、そうだぜ」 レオナルドは鼻をこすりながらはにかむ。 「アレン、昔からお世話になってる庭師のおじさんいたでしょ。おじさん腰を痛めてしまったのよ。代わりに息子のレオナルドが来てくれたの」 「あ・・・あの人の息子?」 状況を把握しきれなかったアレンはようやく理解ができてきた。 「よろしくな!アレン!」 レオナルドはアレンの手を勝手に握って握手した。 「あ、うんっ。よろしく・・・」 「それじゃあ私はレオナルドにお庭をお手入れしてもらうから。ああそうだわ、アレンお菓子ありがとう。明日お屋敷を案内してちょうだいね!」とソフィは手をふり、レオナルドも「じゃあまたな!」と二人は門の奥へ消えた。 家に帰ってもアレンの頭にはさきほどの光景が焼き付いていた。 それは親しげに笑うソフィとレオナルドだった。 「レオナルド・・・」 アレンは自分の知らぬ間にソフィに男の子の友達ができていたのがなんだか気にかかった。 つい数年前まで幼かった頃は、時間さえできると二人で屋敷を抜け出し、河川敷に座ってはそこから見える山の空想話に花を咲かせていたアレンとソフィ。 だが、徐々に距離を置き始めたのはアレンの方だった。 (薔薇の手入れか・・・たしかに僕にはできないな) 引っ越し一日目が終わろうとしていた。初めて眠る部屋で初めて眠るベッド。それだけでもアレンはそわそわしていた。 (なんだか気になって眠れない・・・) どんなにそう思ってもそのうちアレンの瞼はゆっくりと閉じていった。 アレンの夢の中で何かがぼんやり見えた。 『花が開いたら……』 金髪の少女が何か言っている。 (花が開く……?) 朝の光で目を覚ます。 窓の外では小鳥が数羽、声を鳴らしながら木の実を探っている。 「夢か・・・」 アレンは夢に出てきた女の子のことが目が覚めてもしばらく脳裏から離れなかった。 「アレン、ソフィちゃんがいらしてくれたわよ。あらまだ寝ていたの?早く起きて顔を洗ってきなさいな」 アレンは母親の声でハッと我に戻った。 「すぐ行くよ」 身支度をすましてアレンは階段を降りた。 下に降りるとふてくされたソフィが柱にもたれかかっていた。 「あら、レディを待たせるなんてひどいじゃない。昨日の約束忘れてたの?」 「いや、そうじゃないんだけど・・・変な夢を見て。今日はレオナルドはいないの?」 「ええ、レオナルドは仕事よ。他のお家のお手入れに行くんですって」 「そうか、残念だな」 アレンも自分の言葉が本心なのかよくわからない。 「そうね、一緒に幽霊屋敷をまわりたかったのに」 「幽霊屋敷?」 ソフィが「ふふっ」と笑う。 「なんだよ、僕んちのこと?失礼だな、なんにも出たりしないよ」 「まだ一日目でしょう?村の人たちが言っていたわ。誰も住んでいないのに人影を見たって」 「君ねえ、人が住んでから当の本人にそれ言うのかい?」 ソフィは笑いながら二階にかけていく。 「あははっ、怖いのね?」 「別に怖くないよ」 「ここがアレンのお部屋?」 「うん」 「素敵。暖炉もある、まだ使える?」 「使えると思うよ」 ソフィは続けて壁伝いに歩くと窓に近寄った。 「ね、この下中庭になってるの?すごいわ」 「え?」 アレンも窓から顔を出す。見下ろすと年季の入ったレンガと緑でできた庭園になっていた。 「ああ、そういえば中庭があるとは聞いてたけど、気づきもしなかった」 「あら贅沢な人ね。ねえ、中庭に出てみたいわ」 「いいけど、じゃあ一階に降りよう」 「ふふ、秘密の庭園よ」
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