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「いつもありがとね。」
「え?急にどうしたの?」
「もうすぐ付き合い始めて3年でしょ?普段言えてなかったこと、ちゃんと言葉にしようと思って。」
「もうそんなになるんだ。あ、お茶ありがとう。」
「そうよ。あの日、残業続きで疲れてた私が、駅の階段で立ち眩みを起こした所を助けてくれた。あそこから、全てが始まったの。」
「そうだったね。隣の君が階段から落ちそうになってびっくりしたよ。…あれ?お茶、変えた?」
「いつもより少し高いのを買ってみたの。相変わらずのパックだけど。」
「この渋味が高さの証ってわけだ。美味しいよ。ありがとう。」
「あなたはすごいわ。そうやって、些細な事でも感謝を伝えられるのは、感性が優しいのよ。」
「今度は、誉め殺しかい?今日の君はなんだか変だよ?」
「だから、今日は言えなかった事を全部言う日なの。」
「なんで突然?今日って記念日だっけ?」
「違うわよ。でも、今日から記念日になるかもね。」
「本音を伝えた記念日かい?サラダ記念日みたいな話だね。」
「あなたは優しくて、なんでも受け入れてくれて、私は恋にのめり込みことなんてないと思っていたけれど、いつの間にかあなた無しでは生きられなくなっていた。」
「ちょっと大袈裟じゃないかい?」
「そんなことないわ。だから私、毎日、不安なの。あなたを失うのが怖いの。」
「心配しなくても、どこにもいかないよ。」
「この前も、後輩の悩みを聞くって言って女の子と飲みに行ったわ。」
「気にしてたのかい?事前に言ったろ?2人きりじゃなく同期の男も一緒だから心配しないでって。それに、僕が好きなのは君だけだ。」
「あなたにその気が無くても、あなたの優しさに触れた誰かがあなたを好きになる事があるかもしれない。あの日の私のように。」
「心配しすぎだよ。僕はそんなにモテないよ。」
「あなたが気付いていないだけ。私は怖いのよ。あなたを好きになった誰かに、あなたが本気になる事が。あなたを失う事が。」
「考えすぎだと思うけど。じゃあ、どうしたらその不安を取り除いてあげられるんだい?」
「そこよ。あなたは優しいから、仮に私がひどく束縛したってしたがってくれるんでしょう。でも、そんな無理した関係きっと長く続かない。なにより、どんなに束縛したって、生きていれば女性と出会う可能性は排除できない。」
「そうしたら、不安と付き合っていくしかないんじゃない?もう少し、僕を信頼してよ。」
「あなたを信頼してないわけじゃない。でも、怖いの。考えてしまうのよ。あなたが私の前から去ってしまったら、きっともう、生きてはいけない。だから、終わりにしたいの。」
「え?ど、どういう事?別れたいって事なの?」
「違うわよ。あなたと別れるなんて考えられない。
不安を抱えて生きるのを終わりにするの。」
「話が見えてこないよ。つまり、どうするんだい?」
「体があるから、この世にいるからこんなに苦しいのよ。体を捨てて、魂で繋がればいいの。 死後の世界で。」
「…何を言ってるんだい?」
「この世界は終わりにしましょ。あの世で繋がりましょうよ。永久に。あなたは私だけのもの。」
「…ほ…本気で…言ってるの…かい?」
「あら?眠たくなってきた?あなたを苦しませるのは嫌だったから色々探したのよ。痛みが無く眠るように死ねる薬。」
「…まさか…あのお茶に…」
「そうよ。でも、お茶は新しいお茶よ。最後に相応しい、いいお茶にしたの。」
「…」
「もう、口も開かなくなってきた?まってね。…ほら、私も飲んだわ。すぐに行くから、ちょっとだけ待っててね。」
「…」
「私ね、あなたの寝顔も好きだったの。子どものようなかわいい寝顔。これを見るために時間をずらしたの。最後のわがままよ。ウフフ。ごめんね。
あー、大好きなあなた。私だけのあなた。これまでありがとう。そして、
…
…
…
さようなら。」
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