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 病室に着くと足に血栓予防のエアーの加圧機を着けた。手術後に寝たきりだと血栓が出来る危険がある。尿は管が入っていてトイレには行かなくていいようだ。点滴が落ちている。瑞香はお母さんに訊いた。 「どれくらい時間が掛かった?」 「朝の九時からで今五時だから八時間。よく頑張ったね」 「私は寝てただけだもん。頑張ったのは先生と病院のスタッフだよ」  お母さんは微笑んだ。瑞香は手の黄疸がよくなってないことに気が付いた。ベッドの横の棚から手鏡を取ってもらう。お母さんは瑞香に渡した。鏡には黄色い顔が映っていた。 「手術してすぐだから黄疸は治らないよ。疲れただろうからゆっくり寝なさい。お母さんたちはこの近くにホテルを取ってあるままだから」  お父さんが頷く。瑞香は父親似だ。垂れた一重の大きな目に高い鼻、輪郭の整った小さな顔。女の子は父親に似た方がいいと聞く。  医師が来た。三十代半ばの短髪の男性だ。医師はベッドの周りのカーテンを閉めた。ここは四人部屋だ。 「癌は太い血管に巻き込まれていて取り切れませんでした。あとは放射線治療と抗がん剤治療を組み合わせてやって行こうと思います」  瑞香は血の気が引いた。それでどうにかなるものなのか?医師はお父さんとお母さんを面談室に呼ぶ。瑞香は嫌な予感がした。だがこの状態で面談室に盗み聞きしに行くわけにもいかない。もっとも動けたとしても面談室に耳を付けることは出来ないだろう。
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