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 テレビを観ているとぷうんと魚の匂いがしてきた。瑞香はまだ食べられないが皆んなは朝ごはんだ。歩ける人は食堂で食べるが隣のお婆さんはベッドで食べる。 「また、魚の缶詰か。焼き魚が食べたいよ」  独り言が聞こえてくる。瑞香はカーテンで仕切られていて見えないが頷いた。  一時になってお父さんとお母さんが来た。 「三日したら食事が食べられるって先生に聞いたの。食べたいものがあったら買って来るよ」 「食欲はないの。それより脳を冷凍保存させる番組を見たの。もし私が死ぬんだったら冷凍保存してコンピューターに保存してくれない?」  お母さんは目を見開いた。 「なに言ってるの。お母さんより先に瑞香が死ぬことなんてないよ」 「ううん、私、分かるの。でも死は怖くない。いい方法を知ったから」  お父さんは瑞香の肩に手を置いた。 「万が一、死んだら冷凍保存してアンドロイドに脳をデジタル化したものを埋め込んであげよう。だから安心して治療に打ち込め。抗がん剤治療はきついぞ」  瑞香は笑顔になった。顔は真っ黄色だ。医師は余命一年と言ったが痛々しい。お父さんは手に力を入れた。死なないでくれよと祈った。
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