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午後5時。いつの間にかこんな時間だ。
「婆ちゃん、今日は色々と話聞いてくれて有難う。そろそろ帰ろうかな。」
「そうかい。まあ、またいつでもおいで。」
そう言って祖母は少し寂しそうな顔を見せる。
「うん、また近々来るよ。有難う。」
真司は笑顔でお礼を言うと祖母に背を向けゆっくりと歩き出す。
「真ちゃん、人生色々よ。わかった?」
真司は振り返ってやや寂しそうな笑顔で返事をする。
「わかった。」
また真司は歩き出す。
再び背中越しに声をかけられる。
「焦りなさんなよ。」
また真司が振り向く。
「うん。」
次に背中を向けた瞬間
「死んだらいけんよ。」
これには振り返る事が出来なかった。とても優しく、温かい言葉だった。感極まった真司は言葉を発してあげる事が出来なかった。とめどなく涙が溢れた。祖母からは、ただ俯いて肩を震わせる真司の背中だけが見える。泣き顔を見られたくなかった。これ以上心配をかけさせたくなかった。真司は祖母に背を向けたまま大きく手を振った。
「もう大丈夫!!」
声を震わせながらも、何とか発する事の出来た唯一の言葉を祖母に残し、真司はその場を去った。
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