1.平穏

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 車に乗り込み大音量で音楽を流す。眠気覚ましを兼ねた職場までのこの時間が、真司には心地いい。  真司は職場に行くまでの間に至る所で車を停め、買い物をする。「買い出し」は主に真司が任されていた。両手いっぱいの荷物を車に乗せ、それから職場へと向かう。  真司はやっと店に辿り着く。社員の出勤時間は午後五時だったが、買い出しの途中で渋滞に巻き込まれた為、五時を十五分ほど過ぎていた。 「おはようございます。」 また今から仕事かぁ。そう思いながら真司が口を開く。初めにそれに気付いたのは、真司と同じ22歳の村瀬だった。体は華奢だがルックスは整っている。美顔だが嫌味は無い。歳が同じせいか、真司は村瀬とは妙に気が合った。 「はい、おはよう。」 相変わらずやる気のない返事で返す。およそ仕事一つには執着しないであろう村瀬だったが、就職難でギスギスしたこの世の中、たまにはこういう奴が居ても悪くはないと思っていた。やる気は無いがいざという時には頼りになる男だ。  真司は荷物を置くと調理場へ入った。そこには店長の原と、副店長の児島が営業の準備をしていた。 「おはよう。」 二人が元気良く挨拶をしてくる。店長と副店長と言っても、以前の職場での同僚で、なんの気も使わず仕事をする事が出来た。二人共真司より二歳歳上だったが、仕事が終われば友達同様だった。遊びに行く事もあれば、酒を飲んだり食事をしたりという事はざらにあった。
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