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12月31日。いつもと変わりなく時間が流れる。12月も終わりに近付くにつれ、心なしか街が慌ただしくなるのを真司は子供の頃、小さいながらにも感じていたが、いつの頃からか、そういった感情は無くなっていった。年末らしくない年末を過ごし、正月らしくない正月を迎える。
今年も残すところ後数時間という頃、部屋のインターホンが鳴り響いた。確認もせず真司が急いでドアを開けると、息を白くし、寒そうにしている美紀の姿があった。
「久しぶり!」
恋人同士とは思えないそのセリフに、真司は何も戸惑う事なく返事をする。
「ホント久しぶり!」
真司は飲食業という仕事柄、週末は決まって仕事に入る。一方美紀はOLで休みは週末になる。いつもはほんの少しの合間を縫って、一週間に数時間、二人だけの時間を作る様にしている。今日にしても実際に会うのは10日ぶり位だったが、逢いたい時に逢えない二人にとって、10日間は長く酷であった。真司はすぐに美紀を部屋に入れぎゅっと抱きしめる。美紀の「苦しい」という言葉に我に返った真司は、名残惜しそうに両手を外す。途端に美紀が喋り始める。よほど言いたいことが有ったのか、美紀の口は一向に動きを止めない。歳は二歳歳上だったが、子供の様にはしゃぐ美紀を見て、真司は心から愛おしく思えた。散々喋りまくったあげく、
「疲れた。」
と一言だけ言い放ち、美紀はベッドに寝転んだ。真司は覆いかぶさる様に美紀の上に重なった。最高の優しさで美紀を抱きしめる。美紀の腕が真司の背中に回る。真司は美紀の唇に自分の唇をそっと押し当てる。2人の舌と舌が絡み合う。着ている服がそんな2人の邪魔をする。真司は邪魔物を排除した。肌と肌が触れ合う。美紀が真司を受け入れる。感覚が研ぎ澄まされる。その研ぎ澄まされた感覚は、美紀の激しい吐息を呼び、激しい吐息は声となる。声は脳を刺激する。刺激された脳は快感を呼ぶ。『幸せ』が目に見える形で形成されていく。『愛』を表現する方法は沢山ある。しかし、この世の中で、これほど男女の『愛』を効果的かつ具体的に表現出来る方法は無い。真司と美紀はゆっくりと深い眠りに着いた。
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