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天気雨
開店前の小さな喫茶店。
僕が一人で切り盛りしている。
昭和レトロな喫茶店ということで
取材されたこともあるから、
時々遠方からお客さんがやってくることもある。
「今日は一日晴れるかな」
カウンターの内側から窓を見ながら
ぽつりとつぶやく。
するとカウンターのテーブルの上に
置いてある祖父の形見のパイプ。
その中に住み着いている意思を持った狐火が
「晴れだと何かこまるのか」
と尋ねてきた。
「いや、別に困らない。
ただ、お客様のお嬢さんが
今日結婚式だから」
「なるほど、それなら
晴れてくれた方がいいな」
カランコロン
ドアにつけた来客を告げる
鈴が鳴る。
「すいません、まだ開店前・・・」
僕は絶句した。
そこには白無垢を着た若い女性が
立っていたからだ。
「あ、あの花嫁さん?」
彼女は無言で立ち尽くしていた。
そしてぽろぽろと涙を流し始めた。
僕はとにかく彼女を落ち着かせるために
椅子に座らせようとして
白無垢を着ている以上
背もたれのある椅子は良くないだろうと
判断した。
そこで、店にあるアップライトピアノの椅子を持ってきて
とにかく彼女を椅子に座らせようとした。
「あの、花嫁さん。とにかく落ち着いて
ここに座りませんか。
何か飲物を、ああ折角の花嫁衣装が
汚れてはいけないからお冷か白湯を
おだししましょう・・・」
すると花嫁さんが、突然僕の方に
倒れてきた。
僕はとっさに彼女を受け止めると
彼女は僕を見上げて
おいおい泣き始めたのだった。
続く
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