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「姫、お覚悟を」
ボロボロのドレスを着た
敵国の王女は、
湖を背後にしていました。
「私をまだ王女と言うか。
その唇で私を欺き
紡いだ言葉は刺の付いた
薔薇の花」
対峙する騎士は項垂れています。
そう、彼は姦計により王女に近づき
敵国の重要な情報を入手していました。
「貴女が天を呪うように私を呪うのは覚悟します。
ですが、私にとっての生涯一つの可憐な花は
貴女ただ一人。
どうか、一国の王女としての名誉を持って
散るお覚悟を」
すると王女はけたたましい笑い声を上げました。
「そなたは分かっておらぬ。
私は可憐な花ではない。
弦薔薇のごとく相手に絡みつくただの執念深い女。
そしてそなたの裏切りで我が魔力は
闇へと変じた。
そなたを手放しはせぬ。
この湖で白鳥となって私を慰めよ」
そう言うと、王女は呪文を唱えました。
すると騎士はみるみる一羽の白鳥へと
姿を変えたのでした。
王女は泣いた。泣いて泣いて白鳥を抱きしめました。
そして幾年月が過ぎました。
王女と白鳥に変じた騎士は
湖で共に暮らしていました。
ある時、王女がぽつんと白鳥に変じた騎士に問いました。
「何故逃げぬ。そなた飛んで逃げる事ができるはずじゃ」
その言葉に白鳥は白い首を王女の体にまきつけ
大きな白い翼で抱きしめました。
王女は涙をぽろぽろとこぼしました。
そして
「ありがとう」
と呟きました。
するとその涙が白鳥にかかり、白鳥は人間の騎士へと
戻りました。
そして二人は幸せに暮らしましたとさ。
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「おしまい」
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