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出会い
「今日は雨か」
冬の雨は、それが例え『しとしと』と
降っていても『しとしと』と思うには
雨粒が冷たすぎる。
だけど、僕の祖父の葬儀の時は
雨は『しとしと』と降っていた。
葬儀と言っても少ない身内で
みんないい人ばかりだったから
争いとは無縁だった。
僕自身は祖父がやっていた
小さな喫茶店をもらっていたので
他の祖父の遺産は辞退して
気楽なものだった。
そして数日後、祖父の形見分けという
遺品整理に駆り出された。
祖父は読書家で様々な本があった。
仕立てのいい服や祖父宛の手紙や
祖父が書いた日記などがあった。
それらは伯母がてきぱきと
片付けていって欲しいなどと言う事はできなかった。
というか、祖父の子供たちである
伯母達が貰っていくと
片っ端から分けていくので
下っ端の自分は黙っているほかなかったのだ。
そんな時、
ふと祖父の机の引き出しを開けてみたところ、
パイプがでてきたのだ。
よく使い込まれ飴色になっていた。
口に咥える煙道の部分が微妙に下に曲がり、
たばこの葉を入れるボウル。
なんだかシャーロックホームズを思い起こす。
それを見ていて何故か僕は無性に欲しくなった。
「伯母さん、このパイプいただいてもいいかな」
「あら、お父さんのパイプじゃない。
今じゃ紙巻煙草を吸う人も少ないし、
パイプで吸う人はもっと少ない物ね。
ま、いいんじゃない。貰っておきなさい」
伯母はそういうと、他の遺品整理に没頭した。
僕はハンカチを出すとそっと
パイプを包んでリュックの中に入れた。
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