6 華麗なる食事

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 いよいよ食事の時間がはじまる。  さて、読者諸君、食人木の種の説明書の内容を覚えているだろうか?  記憶されていない方がおられるかもしれないので、一応ここに、説明書の一部を抜粋して書き記すことにする。 「発芽したら、その日のうちに最低でも男ひとり女ひとりのごうけい二人の人間を与えてください。そうしなければ、芽が枯れてしまい、栽培に失敗します。」  早百合は、この説明書をよくよんでいたし、よく記憶していた。そして、発芽を失敗させるつもりなど一切ない。だから、今からなにをするべきかをはっきりとこころえていた。  彼女は、両手で大事そうに鉢をもって、床の二人をギラリと見下ろした。朝日を浴びているのに、まったく清々しくみえない。早百合のまわりだけが、別の空間になっているように黒くくすんでみえる。 「ううっ……ううう……!」  女子生徒は、全身のうぶ毛を逆立てながら、怯えた声をあげはじめた。  早百合は、光を吸い込むような真っ黒い目をしながら、ゆっくりとしゃがんで、床のふたりの目の前に鉢をおいた。  鉢に生えるえたいの知れないみどりのラッパの植物は、犬の鼻のようにヒクヒクと動く。匂いを確かめているのだろうか。  はじめに女子生徒に向かってクンクン、クンクンとラッパを動かしていた。すると、しばらくして今度は王子様に向き直ってクンクンしはじめた。芽はしばらくの間、王子と妃をかわりばんこにしながらクンクンしつづけた。  このラッパの口は、一体なにをやっているのであろうか。もしかしたら、どちらを先に食べようかに悩んでいるのかもしれない。  そこへ、早百合がラッパに話しかけた。 「できれば、女の方を先に食べてくれないかしら」  ラッパは早百合のほうにクルンと顔をむけた。ちゃんと言葉を理解しているような感じだ。  一方、縛られている女子生徒は、大粒の涙を流しながら、しくしくと泣いている。王子さまは、植物と会話している早百合が不気味で瞳をユラユラと揺らしている。  ラッパは細い茎をくねらせた。その様は、まるで考え込んでいるかのように見えた。そうしてしばらくじっとしたのち、早百合に向かって、元気よくウンとうなずいて、クルンと女子生徒のほうにラッパの口を向けた。  ラッパと目があう女子生徒。ラッパの口の奥に、白くて細かい、蛆虫に似た触手が、ものすごい速さで蠢いているのが見えて、悲鳴をあげた。  つぎの瞬間、ラッパがパカリと口を開いた。想像いじょうの面積にひろがった。さらに、ラッパをささえていた茎の部分がゴムのように長く長く伸びた。  開いた大きなラッパは、一度天井近くまでのぼると、女子生徒の下半身を飲み込んだ。
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