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スマート猫はベビーベッドの隣に佇んでいた。私がついイライラした声で「子守歌くらい歌えないの?」と言うと、顔色一つ変えずに「こもりうたは『おうたねこ』がうたいます」と返事をする。
怒鳴り散らしたいのをどうにか抑え、私は息子と猫を見ないようにしてベランダに走った。「おはなしねこ」なんて何の役にも立たない。あのボタンを押して「おんおふねこ」か「おうたねこ」にしてやろうかと思いながら、濡れ始めた洗濯物を次々に部屋へ放り込む。
すべての洗濯物を入れ終わって窓を閉めると、部屋の中はしんと静まり返っていた。あんなに家じゅうに響いていた息子の泣き声がぴたりと止んでいる。
ベビーベッドを見ると息子が寝ていた。あれだけ泣いていたら抱っこしてずっと揺らし続けないと寝ないはずの息子が、すやすやと寝息をたてている。その手にはスマート猫のしっぽが握られていて、しっぽの先は息子のおしゃぶりになっていた。しっぽをよだれだらけにされたスマート猫は困っているのか、眉を八の字にしている。
何だかわからないけど、今がチャンスだ。
この隙に洗濯物を家の中に干し、おもらしと雨で濡れた自分の服を着替えた。息子が目を覚ます様子はなく、しっぽをおしゃぶりにされたスマート猫は微動だにしない。
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