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(2)
当然ながらその後の教室は騒然となったわけであるが、透としては自分がどれだけ悪役になっても構わないから、この腕の主と話をつける方が先で。
「痛いよ、とーる」
離せ、と言い張る創の声を無視したまま、透はすたすたと校舎端にある空き教室へと進んだ。
そして、中に誰もいないことを確認すると、中に押しやってドアをしっかりと締め切る。
「何だよ? おまえ、まだまだ二月の予定なんか決まってないだろ? 香織ちゃんとデートすりゃ、いいじゃん」
「そんなこと、思ってないくせに」
創が拗ねている、という事実を確信した透は、彼の頬を軽く抓りながら言う。
「あいにくと、その日は別の人とデートなんですよ、俺は」
「いらいよ、ろーる」
両頬を引っ張られているため、まともな発音では喋ることができない。
「誰とデートか、知りたい?」
にまにまと笑いながら言う透から何とか逃げ出すと、
「知りたかねーよ、んなもん」
頬を撫でながらムスくれた様子で答える。
「まだ言うか、このばかは」
透が両手の指をわきわきさせながら創を追う。
「やだ! 痛いのやだ!」
眉をしかめた透の両手から逃げながら創が叫んだ。
「痛くなければいい?」
「こんなトコでえっちなんかできないだろ!」
「痛くない、イコールえっちかよお?」
「違うのか?」
「違います」
まったくこのガキだけは。
透は苦笑しながら漸く捕まえた恋人、創をそっと抱きしめた。
「やっぱ、えっちじゃん」
透の手が体中を撫でまわすのを感じた創は、自分を戒めている腕を振り解こうとする。
「違うって。こーやって、ちょっとだけぎゅってしたいだけ」
「ちゅうは?」
「して欲しい?」
答える代わりに、創から軽いキスが来る。
「……んー、えっちまでしたくなるなあ」
「それはだめ」
今度は創の掌が透の両頬を包み、ぐいっと押しつぶした。
「痛いよ、はじめ」
「うん。仕返し」
「あのねえ」
「とーるが、こんな風にぶさいくだったら良かったのに」
へにょ、と潰れた透の顔。
更に両手を上下に動かし、ぶさいく顔を作る。
「んで、俺がとーるみたいにかっこよかったらなー」
「はじめ、かわいーからいいんじゃない?」
「やだよ。オンナみたいな顔。おかげで全然モテない」
高三には誰からも見られない童顔。
創は自分のそれをひどく気にしていて、逆にどう見てもちょっとしたオトナに見える透がうらやましくて仕方が無い。
「別に、俺はモテちゃいないよ」
「モテてるだろ! 嫌味かよ、それ。さっきだって、香織ちゃんにコクられてたくせに」
「ヤキモチ?」
「ヤくさー。だって香織ちゃん、絶対あれ、Fカップだぜ? いいなー、あのおっぱい。俺、あんなんに顔すりすりしたい」
「……」
出たな、おっぱい星人。
透は鼻で笑って創の両手をぐいっと引き離した。
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