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(4)
喧嘩をしていようが、らぶらぶ状態であろうが、受験生は受験生。
結局お互い口をきかないままセンター試験を迎え、口をきかないまま二月を迎えた二人である。
喧嘩中だからと顔を合わせたくないけれど、お互い一緒の第一志望だから、二次試験対策の補習授業の選択は全く同じ。
三年生は自由登校となっているにも関わらず、いやでも顔を合わせてしまう。
そして滑り止めの為の私立大学を受験しに行った帰り道、二人はついに目を合わせてしまったわけで。
「どうだったよ?」
先に口を開いたのは透だった。
「別に。こんな三流大、落ちるわけねーし」
これでも成績だけは透に負けじとトップ集団に混じっていた創である。
合格発表なんて見なくてもわかる、というやつである。
「ほほー、大した自信だな」
「当たり前だろ。なんのために今まで勉強してきたと思ってんだよ?」
喧嘩に関しての“ごめん”も何もなく、二人は普通に会話をしていることに気付く。
それが少し嬉しい透は、
「良かった」
創の隣を歩きながら、呟いた。
「何が?」
「や、別に」
創がもう怒ってないのだ、と思い、あえて口にするのを躊躇った透であるが、
「……デート、すんのかよ?」
「気にしてんじゃねーかよ!」
ぼそ、と訊いた創に透が噛み付いた。
「当たり前だろ。あの後ずっと俺のこと無視したくせに」
その結果、仲直りしたわけじゃない、とばかりに創がキツい口調になるから、またしても喧嘩が始まる。
「そりゃおまえじゃねーかよ」
透も負けずに言うが、創が目を逸らしてムっとしたままなことに気付いて、小さく溜息を吐いた。
長い時間口をきかなかったことで、ダメージを受けているのは自分だけじゃいはずだ、と思うとこのまま喧嘩を続ける、なんてしたくない。
「わかったよ。悪かった」
透はさっさと謝って早くいつものらぶらぶ状態に戻りたかった。
「何が?」
「何がって……」
「悪いとかって思ってもないくせに謝るなよな、ばか。それとも何? もうデートの約束したって? だから、浮気するからごめんってヤツか?」
創が軽く睨みながら言う。
「しねーってば。おまえ、俺がおまえのことだけ好きってこと、忘れたのか?」
「忘れた」
「はいー?」
「忘れたよ、もお。おまえ、ずっとずっと無視してんだもん。俺んことずっと無視してっし、センターん時だってあんなに席近いのに声もかけてくんねーし、二次補習ん時だってずっと無視してるし!」
完全に拗ねている創が、口をへの字に曲げたまま睨みつけているその様子が、透にはかわいくて仕方なくて。
だから、そのままその場所が受験生でいっぱいの大学前であることも忘れて、創をぎゅうっと抱きしめたのである。
「わ!」
「ごめん」
「こら、ばかとーる!」
「ごめん!」
「こら、放せってば!」
かわいすぎる、と鼻血を吹きそうな勢いで思いを腕に込めた透であるが、大暴れする創によって漸くTPOというものがわかる。
「あ」
「あ、じゃない。ほら、行くぞ!」
創は自分から引き剥がした透の腕をぐいっと引っ張ると、遠巻きに見ている周囲の目から離れるために全速力で駆け出した。
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