キミだけを想ってる

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(5) 「ごめん」  透が漸く口を開くことができたのは、創の部屋に落ち着いてからで。  某“三流大”から電車で十五分。  その間一言も口をきかない創に不安を感じた透がじっとその目を見つめると、口をへの字に曲げたままではあるが、創が少し赤くなったので、それだけで安心した。  だから、そのまま黙っていた。  黙ったまま、創の隣で一緒に電車に揺られていた。 「ごめん、はじめ」  そして黙ったまま駅から創の家までの道程を歩き、出迎えた創の母親に「こんにちは、お邪魔します」とだけ言って、そのまま創に付いて彼の部屋に入る。 「はじめ?」  どさ、と荷物を下ろした途端、自分を振り返った創に透は真剣な目で謝った。  が。 「赦さない」 「え?」  創は透の胸に抱きついてきた。  が、甘いセリフを期待している彼を完全に裏切る言葉を放つ。 「赦さない。俺んこと無視したこと、赦さないから」  ぎゅうっとしがみ付く、という仕草とは裏腹な言葉。 「はじめ?」  透が創の体に腕を巻きつけようとすると、 「だから、赦さないって言ってるだろ?」 と言って、さらりとその体を離した。 「あと一週間」 「え?」  創の目は、少し怒っている。  けれど、それは自分に対する“嫌悪”ではない。  だから、透は真意が掴めなくてただ創を見つめた。 「俺の納得の行くチョコをくれ。そしたら、おまえのこと赦してやる」 「はいー?」 「一週間後のバレンタインデーが締め切り。それまでに俺の欲しいって思うチョコ、くれよ」 「ええ? 俺、がおまえにやるの? 俺、おまえからもらおうと思ってたのに」 「やらん! 俺はチョコ好きなんだ。いいだろ、おまえは女の子からいっぱいもらえるんだから。俺なんか今までマネージャーからギリでしかもらったことねーんだぞ?」  少し頬を赤らめて創が言い、透はバスケ部のやたらと気の利くマネージャーを思い出していた。  うん、確かに彼女なら部員全員にギリチョコを配りそうである。 「だからさ。くれよ、俺のことびっくりさせるようなとびきりの本命チョコ」 「創は? くれないのか?」 「やらん、つってるだろ。おまえは香織ちゃんからもらっとけ、ばーか」 「香織ちゃんって……」  確かにあの巨乳は創の憧れるモノではあるだろうが、だからといってこんなにまで根に持たなくても。 「それまでお預けな」 「何が?」 「えっちだよ、えっち。あとちゅうも。俺の納得が行くまでお預け」 「うわ、まじかよ? ただでさえもうずいぶんヤってねーのに!」  花の高校生。  好きな人間とふたりっきりでいつもえっちしているベッドを目前にしている、という状況だけでもしっかり勃ってくるくらい、やりたい盛りだというのに、都合一ヶ月もお預けなんぞを食らうとは。  透は仲直りできたから、とすっかりヤる気になっていただけにかなりのショックを受けていた。 「せめてキスくらい」 「だめー。お預けー」  かなり、意地悪な言い方で創が言い放つ。 「いいだろ? 前期まではまだ時間あるし、おまえならヨユウだし」 「余裕なんていい切れねーだろお?」  透が反論したが。 「いーや、おまえは余裕だね。センター殆ど満点だったくせに」  センターが終了し、自己採点の後駆け抜けた噂。  透が世界史の凡ミス一個カマした以外、満点だったって話。 「だから、ちょっとしたハンデだ。さあ、おまえは一生懸命俺のためにチョコを作るんだ!」 「うわ、最悪。おまえ、何それ?」 「いいだろ。同じ大学行くってのは決めてんだし。俺は俺で頑張るんだからさ」  わかったらとっとと家に帰れ、とばかりに創は部屋のドアを開け放った。 「はじめー」 「ほいじゃ、キタイしてるぜ?」  ばっちん、と創がその丸い目でウィンクを綺麗に決めてくれ、同時に透は部屋を追い出されたのだった。
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