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(6)
透から「いいモン見せてやるから、ウチに来い」というラインが入って来たのは、わずか二日後のことであった。
「早っ。おまえ、ちょーヒマ人?」
創が笑いながら駅二つ分離れた透の家へ行くと、透は嬉しそうな顔で創を部屋へと招き入れた。
「ヒマじゃねーよ。おまえのためにやってんだ、つーの」
いいから見てみろ、と創の目の前に出されたのは割と大きめの箱。
「何?」
「開けてみろよ」
促され、創がかわいらしいピンク色のラッピングを開けると、中には。
「おお。おっぱいだ」
おっぱい型をしたホワイトチョコが二つ、ぼんぼん、と並んでいた。
きちんと細工がしてあり、ホワイトチョコの頂上、つまりは乳首にあたる部分にはピンク色が施されている。
しかもサイズは創が理想とする処の掌に余る程の大きさ。
「いいだろう? どうだ、はじめ。おまえの好きなおっぱいだぞ?」
透は絶対にこれなら創も納得が行くだろうと確信した様子で問う。
そしてその手は早くも創の着ていたジャケットを脱がしにかかっている。
「うーん、カタチはいいんだけどなあ」
そんな透の手を軽くはたき、創は人差し指でおっぱい型チョコをつんつんと触って首を捻る。
「なんだよ、はじめ。気に入らないのか?」
「だってさ、普通おっぱいってもっとやーらかいよね?」
想像上、でしかないからなんとも言えないが、創は右の掌をにぎにぎと空気を掴むように表現してみせる。
「おまえ、その手つきやめろよ。やらしいなー」
「う……」
何も考えずにそんな仕草をしていた創は、透に言われて赤くなった。
「手触りかあ。そこまで考えてなかったなあ」
透は創から箱を受け取りながら、おっぱい型チョコを同じようにつんつんと触る。
「うん、カタイな」
「うわ、嫌味。おまえ、今誰のちちと較べたんだよ?」
「ちち、言うな!」
「ふん。モテますからね、とーるくんは。一年ん時の真美センパイ? 二年ん時のさつきちゃん? それとも」
「具体的な名前出すんじゃねーよ、ばか」
透の歴代コクられた美女を完全に把握している創は、そのうち何人かは喰っちゃっただろうと確信している。
冷たい目線で名前を並べていきながら、自分でもシットしていることに気付いてちょっと嫌な気分になった。
「誰のとも較べてない。……そうだな、強いて言えばおまえの、かな」
透は言うと、ジャケットを脱いでコーデュロイのシャツ一枚になっている創の乳首につん、と人差し指を当てた。
「ひゃ」
「当たり、だ」
一発でその位置がわかってしまうくらい、既に創の身体は知り尽くしているけれど、だからこそそんな創のちょっとした喘ぎ声にも下半身は反応してしまう。
透はついでに創の耳をちろっと舐めた。
「や、ん」
「ね、ご褒美は?」
耳元に低く掠れた声で囁く。
透のそれが完全に欲情していることに創も気付いていたし、既に彼の掌が首筋のかなり感じる部分を擽っていたので、そのまま流されそうになる。
「はじめの気に入るチョコ、用意したんだからさ」
だから、ヤらせろ。
透の口唇が創のそれに塞がりかけた瞬間、
「違う!」
創はふるふるっと首を振って我に返った。
「はじめえ」
「違うだろ! 俺の納得の行く、チョコだ! これじゃ納得できない!」
創を押し倒しかけていた透は、そのまま仰向けに寝そべった彼の上にぱったりと倒れかかった。
「重いよ、とーる。どけ」
「やだ」
「やだ、じゃねー。約束しただろ? 俺の納得行くチョコくれるまでお預けって」
「してない」
「したんだ! いいからそこをどけ!」
ぱし、と透の両頬を軽く叩いて、創はのそのそとその腕の中から這い出る。
「何でだめなんだよ?」
「だって、やーらかくないもん。これじゃおっぱいじゃない」
「チョコなんだから当たり前だろお。喰ったら口の中でやおやおになるからいいじゃないか」
「いくない。こう、掌でほわほわっていうか、ふにゃふにゃって感じの、ちゃんとしたおっぱいがいいんだ!」
拳を握って力説する創に、透はがっくりと項垂れた。
確かに手触りが創の理想とする“おっぱい”ではないことは認める。
が、どうやってチョコでそれを表現しろ、と?
「ということで、却下だ。とーる、次回作をキタイしてるゾ!」
ぽん、ぽん、と透の肩を叩くと、創は彼の部屋を後にした。
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