キミだけを想ってる

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(1) 「(とおる)くん、二月十四日の予定って何か、ある?」  昼休憩中の教室のど真ん中、という大舞台。  に、おいて。  学年でも一、二位を争う美女が透に堂々とそんなセリフを言い放った。  もちろん、透の隣で、もそもそとメロンパンなんぞを咀嚼していた(はじめ)にしても、席を外す余裕などありはしない。  休憩中ならではのざわめきも、完全に静まり返ってしまったくらい、その衝撃は教室中を走りぬけた。  彼女の声がよく通る、というのもまた、彼女自身がわかっているのだ。 「透くんのこと誘うの、あたしが一番乗りだと思うんだけど」  そりゃそうだろう。  まだ冬休みがあけたばかりだ。 「えっと……」 「すぐに返事、くれなくてもいいよ。当日だって、構わない」  断られるはずなどない、という自信に満ち溢れている彼女の様子に、隣で聞いていた創はちょっとムっとした。  が、それをこの場で表情に出す程ガキでもない。 「あの、ね。香織ちゃん」  透を見上げる丸い目。  睫毛も当然自前で、それがばさばさと縁取っている。  その意志の強い目を向けられた透は、この場で返事をしていいものかどうか少し悩んだ。  なので。 「場所、変えない?」とりあえず、提案。  だがしかし、ほんのり色のついたリップのせいでジューシーな印象のある柔らかそうな唇が、再び開く。 「ここじゃ、だめなの?」  クラスメイトの前で、堂々と恋人宣言してください、とでも言いたいのか、香織は透の答えが“否”である予想など全くしていないらしい。 「言ってやれよ」  ずず、とコーヒー牛乳のパックを啜り、創が横から口を出す。  静まり返っていた教室の中で、創の声は少しだけ響いた。  そしてとん、とパックを机に置くとふいと席を立つ。 「あ、はじめ」 「どうせ予定なんかないんだろ?」  言い捨てた創の声がほんの少し刺々しいものであることに気付いたのは、恐らく言われた透だけだろう。  だから。 「待って、はじめ」  透は立ち上がった創の腕を掴み、そのまま香織へと視線を向けた。 「ごめん、香織ちゃん。俺、その日は予定あるんだ」 「え?」 「ごめんね」  言って、今度は透が創の腕を引いて、教室を後にした。
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