アッフルガルド

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「ここ?」「ここだな」「うん。間違いない」  あたしたちはいま、その扉の前で立ち止まる。  左手で慎重に扉を押す。  開いた。あっけないくらい簡単に。  部屋の中はほのかに明るかった。   石造りの床に、異国模様のカーペット。  部屋の左に大きな寝台。ふわふわシルクの天蓋がついた、すごく清楚で上品なやつ。  でも今はそこには誰もねておらず、  右奥の大きな窓の前に、たぶんそのベッドの持ち主――  この部屋の主であるひとりの小柄な人影が。 「誰です?」  声。  よく通る女性の声だ。  たぶんとても若い。  あたしは一瞬たじろいだ。  なにしろその声があまりにも、  あまりにも、そう、その――  綺麗だったから。
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