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「お嬢様、ほら早くなさって下さい!
朝食が、冷めてしまいますよ?」
この女性はやはりメイドさん、あるいは乳母的な存在のようだが、私とは相当近しい間柄にある人なのだろう。
だってさっき割と強めに揺さぶられた上、散々な言われようだったもの。
......私の扱い、かなり雑じゃないか?
うーんと大きく伸びをしてベッドから起き上がると、私はされるがまま彼女の手により着替えをさせられた。
濃いスミレ色の、ワンピースと呼ぶには少しゴージャス過ぎるドレス。
髪はとかれ、そのまま結われた。
こういうの、ちょっとコスプレみたいでワクワクする。
でも起き抜けのコルセット、きつい。......ヤバイ、吐きそう。
完成した姿を確認すると鏡の中には、スミレ色の瞳と濃灰色の髪を持つ、目元の泣き黒子が印象的な貴族令嬢の姿。
美人ではあるけれど、これは完全に悪役顔だな。
だけど残念ながら、やはり私の最推し令嬢 レイたんではないらしい。
彼女の髪は栗色だし、瞳の色は深海を思わせる鮮やかなエメラルドグリーンだ。
更には陶器のように滑らかな、白い肌が自慢のクールビューティー様だったはず。
ちなみにそのキービジュアルを目にした瞬間、私は彼女を推す事に決めた。
それにしても今の私みたいな見た目をした女の子はあの小説の中には確か一切出てこなかったから、これがお話の中の世界なのだとしたら、残念ながらモブ中のモブに違いない。
......どうせ夢なら、あの麗しの悪役令嬢 レイたんになりたかった。
食堂に移動し、出された朝食は、焼き立てのパンだの、温かいスープだの、謎のフルーツだのと盛りだくさんな内容で、どれもとんでもなく美味しい。
最初はびっくりしたけれど、中々悪くない。
THE庶民な人間なので、たまにはこういう夢もいいもんだな、なんて呑気に考えていたのだけれど。
でもこれは、夢なんかじゃなかった。
死んだ覚えも無いのに、いつの間にか私は小説内の世界に、貴族のご令嬢として転生していたのだ。
だけど、ちょっと待ってよ。
こんな形で流行になんて、乗りたくないんですけど!!
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