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「そうなんだよ、お嬢ちゃん。このところ海況が悪くてね」
かすかに申し訳なさそうに、ごつい顎(あご)の無精ひげを左手でさすりながら答えたその大男。アタマは綺麗にそり上げてスキンヘッドにしている。そんなに年齢が高い感じでもない。肩幅は広くて手もやたら長くてゴツくて、いかにも「海の男」な空気を醸し出している。
「カイキョウ? カイキョウって何?」
わたしはデスクを両手で叩いた。『不適切なターゲット。非破壊オブジェクトです』のシステム表示が、赤字でさりげなく視界の左から右へと流れてゆく。
「ああ悪ぃ、言葉わかんねぇか。海況ってのはつまり、海の状況ってことだ」
「状況って何よ? こんな晴れてて天気は最高、帆船には申し分のない風だって吹いてるじゃない?」
「まあ、あれだ。天候は嬢ちゃんの言う通り、絶好の渡航日和なわけだが。まあでも、それ以外の要素が、だな。いまちょっと、海の上がキナ臭いんだ」
「はぁ? どういう意味よ、それは??」
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