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「ムリだなぁ」「今は時期が悪ぃよ」「ムリですね~」「あきらめた方がいいよ」「うちも無理だ」「どこも今は受け負わねぇよ」「……」「……」
そのあと港の近くの路地をかけずりまわって、全部で十二社まわった。でもどこも答えは同じ。海況不良。時期が悪い。無理、無理、無理。
太陽はすっかり海の向こうに傾いて、もう完全に心が折れそうになった頃、もうダメもとであと一社だけ。と思って飛びこんだ、港の隅のうらぶれた海事会社。表の看板は長年の雨風で塗装がはげて文字すら読みづらい。「イディハト商船」と。たぶん、書いてあるのだと思うのだけど。暗い店内には、ぽつんと隅に簡易なデスクと折りたたみ式のチェアがあるだけ。そこにひとりの男が座って居眠りをしていた。わたしが声をかけると、いかにもメンドクサそうに腕をのばしてあくびをし、行先は? ときいてきた。メ・リフェ島。わたしはまったく期待ゼロで島の名前を口にする。
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