フォーの聖所

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「話にならん。それっぽっちでメ・リフェ島まで渡れると本気で思ってるのか? 帰れ帰れ。あんた、来る場所を間違えたな」  男が何か、野良犬を追い払うみたいにシッシッと右手を振った。 「な、なによ。じゃ、いくらなら請け負ってくれるのよ?」 「ふだんの相場は、ゴールドでひとり1600」 「高ッ!」 「これでも安く設定してる方だぞ?」 「どこがよ! むちゃくちゃ高いじゃない!」 「あそこはただでさえ海流が悪いし、しかも、とびきりたちの悪いシーサーペントがうようよしてる。そこを通るリスク料だ。それに――」  男はちらりと、壁のどこかに視線を投げた。そこには何かの、書類だかチラシのようなものが乱雑に貼り付けてある。でも、そこに何か書かれているか、わたしには読み取れない。その文字は、何だか妙な古代紋章のようにしか見えない。 「そして今は、非常事態だ。この街の港は完全に封鎖されている。沖にはグマ帝国の正規軍の軍船が封鎖線を張って目を光らせてる。そういう最低の状況の中、こっちは夜、闇にまぎれて隠密に渡航することになるわけだぞ。生半可なリスクではない」  壁の一点を睨んだまま、男が言った。いかにも海賊っぽい危険なビジュアルなのに、意外に律儀に説明してくれるあたりが、やはりゲームのNPCだ。 「したがって、そこの部分の臨時特別料金も加算――」  男が手元の、レトロで風変りな計算機を指ではじく。 「ゴールドで4200。それが最低料金だな」
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