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もし、本当に殺されたのではないとして、ではなぜ、姉がわざわざハヤマに行ったのか。なぜそこを最後の場所に選んだのか。理由はもう、死んだ本人にしかわからない。ずっとずっと昔、母親がわたしたち姉妹を捨てて蒸発してしまう、それより前の時期に―― 当時はまだ壊れきっていなかったわたしたち家族三人で、いちどそこまで、潮干狩りに行った。かすかに記憶に残っている。わたしは三歳とか、それくらいだったはずだ。潮の匂い。波の音。海鳥の声、そして海のずっとむこうにいくつもの帯になって降る―― 空から降りる光の記憶。
あるいは姉も、そのおぼろげな遠い日の海の記憶に、最後はすがって、そこにもう一度、その、もう今では無くなってしまった遠い家族の記憶の風景の中に、あと一度だけ、身を置きたいと―― 考えたりも、したのだろうか。
でもわからない。すべては後付けの想像だ。とにかく姉は、最後はその、それほど強く彼女に縁があるとも言えない、季節も海水浴にはほど遠い、粉雪のちらつく冬の海辺で―― 最後はそこで、自分の命を終わらせた。
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