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世界は変わり始めているのだろうか?
昨日までは目の前にあったものが、今朝にはもう、ない。
昨日まで正しかったもの。昨日までは真実だったもの。
それが今日、どれだけ正しく、どこまで真実なのだろう。あたしには、よくわからない。世界のどこもかしこもが、あたしの知らぬ間に、大きく変わろうとしている。その響きが、あたしは鼓膜の端に、ほんの少しだけ届き始めている。そのような感覚が、近ごろあたしの中にある。そしてその感覚は、少しずつ、少しずつ、日増しに強くなっていくようだ。
だからその朝わたしを捉えたその出来事も、
大きな変わり始めた世界の片隅の、ごくごく小さな波のひとつに過ぎない――
そうなのかもしれない。
でもわからない、まだあたしには。
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【 ユーラシア大陸東方海域
日本共和国 トウキョウ市 】
『元気? こっちはまあまあ、元気よ。まあ、いっかい死んだのに元気って言うのも、ちょっとあれだけどさ――』
死んだ姉のまりあからメッセージが届いたのは九月の雨降りの午後だった。アタマも体もだるくて何もやる気が起らない重い灰色の午後で、わたしはコスプレカフェのバイトを無断欠勤して、もう半年以上も洗濯してないキルトを頭までかぶり、うす暗い部屋でひとりで寝ていた。聞こえるのは雨の音だけ。その時とどいたダイレクト・メッセージ。
『こっちはいま、ある島にいます。良かったら、いちど会いに来て。いろいろあんたに話したいこと、あったりもする。事情があって、こっちからは島の外に出られない。でも、そっちからはたぶん、入れる。面会は許可するって、あのヒトも言ってるから。その島の場所は――』
それまでの気だるい眠気が一気に吹き飛んだ。わたしはいきなり瞬時に覚醒し、キルトを遠くに払いのけて―― それから読んだ。全力で読んだ。あんなに集中して文字を読んだの、たぶん生まれて初めてだ。自分の心臓の鼓動を、自分でも自覚した。時間が止まったようだった。雨の音も何もかもが一瞬にして消えた。
まりあ――
おねえ、ちゃん――
生きて―― いるの?
なぜ。どうして。どこで、どうやって――
百万の疑問が一気にアタマの中で湧き立つ。
やがてその奇妙なメッセージを読み終えたわたし―― そして直後に、わたし・神奈倉カナナ(16)が、その島行きの決断を下すまでに、一億分の一秒すら必要としなかったのだ。
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