届かぬ想い

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届かぬ想い

やれやれ。 ふぅ、と思わずため息が漏れてしまいます。いつものことであるとは言え、ワタクシはもどかしいのでございます。 コタさまは一体どうされるおつもりなのか。 ワタクシの預かり知らぬことであるとは言え、いつまでも煮えないお鍋のように、いつまでもぬるいまま具材が煮えず食べどきにならないお鍋のように、ぐだぐだぐだぐだしているコタさまがもどかしい! あの背中を引っ叩いて差し上げたい! 「うーん、、、」と、伸びをすると、凝り固まった背中がほんの気持ち程度ほぐれた気がする。何やら視線を感じで振り向くと、ハレと目が合った。 「あれ?起きてたの?」と僕が声をかけると、「ワタクシは寝ておりませんよ?」となぜか疑問形で返事が返ってきた。 「お仕事ですか?」 「うん、まぁ、そう、そんなとこ」 僕の返事にハレは「?」とでも言いたそうに首を傾げる。 「お仕事のようでお仕事でない、しかしコタさまにとっては仕事以外の何ものでもない。つまりプライベートの厄介ごとでございますね」 「!!」 どうして分かったんだろう。 あぁ、僕の表情(かお)に出ていたのか。厄介ごとを抱えているって。僕はどうも顔に出るらしいから、外では気をつけないとね。 「さすがハレ、と言いたいところだけど、厄介ごとというか何というか…」 「何でございますか?」 何て表現したらいいんだろう。上手く言葉が出てこない。厄介ごとには変わりないけれど、僕がそう言ってしまうとよろしくない気もする。 何せ、原因は僕にあるのだから。 「…」 「?」 「……」 「!?」 「………」 「ちょ、ハレ、待った!」 「あら、お気づきになられましたか」 「それは卑怯じゃないかぁ〜」 ハレの特殊能力。 相手の言葉の真偽を知ることができる能力(ちから)。 ハレの父であるクロエが、致し方ない成り行きで伴侶のおたまちゃんとハレに飲ませた反魂玉の、言うなれば副作用によって得た能力なのだ。 「コタさま。歯切れの悪い言い方をなさるということは、その厄介ごととやらはコタさまご自身が原因なのですね?」 「ここで誤魔化してもバレるもんね。そうです、その通りです」 「もしかして陽月さま絡みですか?」 「どうしてそうなるかなぁ」 「はは〜、図星でしたね」 「はぁ。誤魔化してもしょうがないんだった」 僕は観念することにした。ならいっそのこと、ハレに相談してしまおうか。 「実はさ、仕事絡みなんだけど、」 「はぁ、お仕事のご関係ですか」 僕はどこからどう話そうかと思案しながら、言葉を探しながら、事の起こりから話すことにした。 「ちょっと長くなるかもだけど、」と前置きすると、「構いませんよ」とハレはにっこりする。「なにぶん、自由な時間はたっぷりとありますから」と、なぜかドヤる。ドヤ顔のハレとは珍しい。 「ワタクシに何かお手伝いできることがありましたら、喜んでいたしますよ」と、にっこりした。 正直なところ、猫の手も借りたい… よし、借りちゃおう! 僕は、ひと月ほど前に起こった事の始まりから話し始めた。
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